男が目覚めるのをじっと待つ女。

男は人並みはずれた美貌を持っているが、女には年相応の皺が・・・。

「だれが皺くちゃや!」

 

 

空を飛ぼう中編〜その2

 

 

スパコーン!

自分が叩かれなければ、小気味良いと感じる音がして、俺は身を起こした。

「ケガ人に何をする」

神尾家の居間だ。 せっかくの意味ありげモノローグも今日で打ち切りか?

目の前には小じわの気になる妙齢マダムが。

「まだ言うか!」

スパン!

もう一回叩かれる。

「何をナチュラルに思考につっこんでる」

「ボケがそこにあるからや」

・・・恐るべし、芸人魂

「それはそうと、人を轢いておいて、何も言うことがないのか?」

「そうやったな」

「そうだ」

謝れ。

修理費払い ライト曲がったやん」

「なら、慰謝料払え」

・・・この女。

「ピンピンしてるやん」

確かにまったく健康体だが、心の問題だ。

「お前のバイクなんて毎日納屋に突っ込んでるだろ」

「納屋に修理費は払えんやろ」

払えたら、払わせるのか?

「それより・・・」

晴子が声の調子を変えた。

「居候、あの子となんかあったんか?」

「・・・別に」

「なんやへこんでたみたいやったから、居候との痴情のもつれ思て」

「んな訳あるか」

・・・去っていく男と、それを引き止める女。

はたから見れば痴情のもつれか?

「とりあえず、励ましてきてぇな

「あんたが行けばいいだろう」

「それかて、居候の仕事や」

「・・・わかったよ」

正直顔を合わせづらかったが、どの道このままじゃきまりも悪いしな。

「俺がいなくなったら、これはあんたの仕事なんだからな」

俺は居間をでながら晴子に言った。

「今さら・・・そんなことできるわけないやん」

 晴子のつぶやきが聞こえたが、俺は何も言わずに観鈴の部屋へ向かった。

 

 

観鈴の部屋の前には、いつものように札。

「スゴT養殖中」

あれは養殖するものだったのか?

「観鈴、入っていいか?」

ノック、一応レディースルームだからな。

「往人さん?」

観鈴が出て来る。

部屋の中にいるそらは、俺に対して物凄い敵意を向けてくる。

が、観鈴の方はあからさまに元気がなかった。

「どうしたの?」

「さっきは、悪かったな」

「・・・ううん、往人さんは悪くない」

そう言って、観鈴は首を振った。

「往人さんがどこか行っちゃうのは寂しいけど、しょうがないことだもん」

自分に言い聞かせる口調。 でも確かに、俺が旅を続ける限り、それはしょうがないことなのかもしれない。

「お前は明日飛べるようになるんだろ。 飛べれば、どこにいたって会える」

「うん、そうだね!」

お伽話俺の言葉に観鈴はとびきりの笑顔を浮かべた。

単純なのか? 俺の話を信じ込もうとしてるのか。

「絶対、飛ばせてやるからな」

俺は言いながら改めて胸に誓った。

 

夕方、俺は駅に遠野をたずねていった。

みちるに蹴られたが、目的のものはゲット。

そして、その日は何事も無く終わった。

 

朝〜朝だよ〜、ご飯食べて学校・・・

「・・・変な夢を見た」

変な男が、だおーとかあうーとかうぐぅとか鳴く動物と、楽しく暮らす夢だ。

俺の前世、じゃ無いよな。

納屋を見回す。

ある意味マイホームだ。

俺はマイホームを出て、神尾家台所へ出勤する。

 

 

「あ、往人さんおはよう」

観鈴がてきぱきと朝食の用意をしている。

調子はいつも通りだな。

今日はご飯。

目玉焼きと味噌汁がおかずだ。

「パンじゃなかったのか?」

テーブルの上に置かれたジャムを見る。

「そうだった」

観鈴は忘れていたようだ。 すごい味のジャム、食べたかった。

今日は日曜で学校の補習もない。

昨日は土曜日、当たり前だが。

ご都合主義じゃないぞ、言い忘れてただけだ。

「起きたか、居候」

なぜかテーブルに晴子。

「日曜も仕事じゃなかったのか?」

「あほ、休み無しで働けるかい」

「要するにさぼりか」

「有給や!」

朝から荒れてるな。

・・・俺には違いが分からないから、どっちでもいいんだがな。

とりあえず、席について飯を食べる。

晴子がいたせいでお代わり出来なかった。

「さて、行くか」

「うん!」

元気のいい観鈴の返事。 お出かけを感じて、そらがその肩に乗った。

「ちょっと出かけてくるぞ」

「はいはい、どこでも行ってきぃ」

晴子は無関心に味噌汁をすすっている。

「んじゃ、飛んでくる」

「行ってきま〜す」

俺は昨日遠野にもらった秘密兵器の入った紙袋を手に、外へ出て行った。

観鈴も後に続く。

「・・・・なんやけったいな遊びやな」

結局、なぜか晴子もついてきて、俺達は堤防へ向かった。

 

 

「で、ここで何するん?」

堤防につくと、開口一番晴子が聞いてきた。

「飛ぶんだよ」

「居候、頭大丈夫か?」

ぬ、失礼な。

学歴が無いからって馬鹿にするな。

「ちゃんと作戦を考えてきてある。 安心しろ」

「その紙袋?」

「ああ、秘密兵器だ」

「往人さん、ミサイルは危ない」

「その兵器じゃない」

「居候、テロはあかんで」

「お前も乗るな」

「で、ホンマの中身はなんやねん」

・・・おちょくられてる。

この飲んだくれ、いつか家中のを隠してやる。

「見て驚くなよ!」

俺は袋の中身を取り出した。

 

 

続いたり



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