次の日。スポーツバックにある程度の荷物を詰めた俺は、朝靄の街を歩いていた。
『今年の残暑は短いらしいわよ』
『ホームレスには辛いわね』
双子のからかいにげんなりしながら、手にした紙束を眺める。
そこには、略してミミコミが把握している全国の化け物リストが載っていた。
鹿子をやっつけた時の報酬として、俺が手に入れたものだ。
『そんなものもらって』
『何に使うわけ?』
それを左右から覗き込みながら、双子が俺に問いかける。
まぁ、もっともな疑問だろう。
正直な話、俺も大した考えがあってこれをもらった訳ではない。
「別に、ただ会ってみたいと思っただけだ」
世界に化け物は自分だけだと思い、正体を隠している奴もいる。
事情があって組織に属していない奴もいる。
彼らが何を思い暮らしているのか、それを直に聞いてみたかった。
『ただの好奇心?』
『第三勢力でも作る気かと思った』
そんな大層な野望は無い。 リストに載ってるってことは、既に彼らはミミコミにマークされている訳で、接触自体難しいだろう。
……でもまぁ、それも面白いかもしれないな。
「つうか、お前ら何で憑いて来てるんだよ」
『一度庇われたでしょ』
『皮も見つけてもらったし』
「右手の事なら、もうきちんと動くし、皮は偶然落ちてきただけ……」
殆ど言いかけてから、双子が無粋ね、と口を尖らせているのに気づく。
まぁ、重くもないし、ラジオ代わりにはちょうどいいか。
そう考え微笑み、俺はその化け物リストを見直す。
「問題はどこから行くかだよな」
ずらりと並ぶその名前を目で追いながら呟いた。
意外と多いもんだ化け物。
全国津々浦々、貴方の隣も化け物かもしれないって勢いである。
……実に夢があることだ。
『西が良いわ』
『東がいいわ』
双子はこういう時に限って、別々の意見を言う。
もしくはそれは俺をからかおうという意図であって、結局は同じ意見なのかもしれない。
(だいすけさんだいすけさんだいすけさん)
腹の虫が鳴っている。 俺ってやっぱり餓死するんだろうか。
しないと思えばきっとしないのだろう。 どうにでもなる。 どうとでもなれる。
(あいしていますだいすけさん)
「あー、うるさい」
こうして、俺の賑やかな一人旅は始まった。