さてそれから、俺は綾奈とミーヤに謝り倒して一緒に帰宅した。
 綾菜の家、という事でミーヤはとても緊張している様子だったが、現在綾菜はトイレに行っており、ミーヤは物珍しげに室内を見回している。
 ソファーの隣に俺が座っているというのにむしろリラックスしているその様は、以前のように警戒モードに入っていないというだけマシなのだろうか。
 本音は、もう二三歩近づきたいのだが、俺には今日決めた事が一つあった。
 息を吸い、彼女が左右を向く度に何気に触れ合う太ももの感触を忘れるようにしながら、俺は彼女に話しかけた。
「ミーヤ」
「ナニ?」
 俺と視線を合わせるミーヤ。 彼女は瞳の輝きまで美人だからズルい。
「恋人同士って嘘、やっぱり撤回しない?」
 体の底で、それを惜しむ誰かさんがやめろバカと叫んでいる気はするが、もう決めたことだとそれを無視する。
「ドウシテ?」
 俺の唐突な提案に、ミーヤが再度俺に問いかけた。 まぁ、ミーヤが疑問に思うのは分かる。言い出したのは俺だし、この関係を喜んでいたのは俺だけだったはずだ。
「ダイスケは、私と付き合ってると思われるの、イヤ……?」
 と、思ったのだが、彼女は顔を俯かせ、ぽつりとそんな事を言い出す。
 え、実はミーヤもこの関係続けたかったの? そう思うと決心がぐらんぐらん揺れる。
「そういう訳じゃないよ。 ただ、これ以上あの蛇の好きにさせたくない」
 だが俺は、決心のきっかけとなった平井との昼のやりとりを思い出し、持ち直した。
 俺達がこうしている間にも蛇は人を食い、その周囲にまで悲しみを撒き散らす。
 俺が、ミーヤがあの化け物と一線を画しているのはそれを行わないからであり、奴の殺人を見過ごすなら、その境界は危うくなってしまう。
「だから、綾菜に本当の事を話さないか?」
 俺の提案に、ミーヤはしばらく俯いていた。
 彼女の言葉を促そうか。 俺がそう考え始めたところで、彼女が口を開く。
「本当は、怖い、ちょっと」
「怖いって、何が?」
「先輩が、占い師で、やっぱり私が、その、ミミックだって決定……判明……確定」
 ミーヤは適切な言葉を見つけられず、しばらく言葉を捜していたが、やがて諦めたのかため息をついた。
「私が化け物だって、そういう事になるのが、怖い」
 彼女自身は、自らを化け物とは認めていない。 しかし、占い師の能力を疑う事は、組織の一員として許されない。
 そんな葛藤があって、彼女は結局、言葉を曖昧に濁した。 のだと思う。
 化け物だと判定されれば、きっとミーヤは組織には居られなくなるだろう。
 だが、ミーヤにとっての恐怖はそんな事ではない。
 彼女は多分、何か深刻な事情があって化け物を憎んでいる。 そう、俺は感じていた。
 綾菜に化け物だと宣告されれば、彼女はそれを受け入れざるを得ないだろう。
 そうなれば彼女は、雅はその憎しみを自らに向けなければならなくなる。 
 一番身近にいる化け物、自分自身を殺さなければならなくなる。
「それは……」
 俺は、彼女を慰める言葉など持たなかった。
 嘘をやめようと言っている俺自身が、ミーヤに大きな嘘をついているのだ。
「……やめておこうか?」
 俺は、彼女に尋ねた。 ひどい偽善だと分かっていても、そうせざるをえなかった。
 ミーヤはしばらく下唇を噛んで俯いていたが、やがて首を左右に振って俺に答えた。
「それで、先輩の危険が減るのなら、言う」
 目は合わせず、俯いたままだったが、彼女の言葉には強い決意があった。
「そっか、ミーヤは良い子だな」
 俺は思わず、ミーヤの頭に手を置いていた。 きしむ事無くさらさらと流れる髪を、二度三度梳く。
 それに身を任せるミーヤ。 かと思ったがただ唖然としていたらしい。
「ナ、ナ、ナァ!」
 我に返ると、彼女は野生動物のごとく飛びのいた。
「いや、どうせだから最後に恋人らしい事しておこうと思って」
「モウ終ワリ! 終わったノ!」
 笑って見せると、ミーヤはクッションを手に取り、俺をバシバシと叩いた。
 しかしそれもミーヤが尻に敷いていた物なので、俺にとってはむしろ嬉しい。
 そうやって俺達が最後のイチャつきを満喫していると、綾菜がトイレから戻ってきた。
 ばっとソファーの上で正座し直し、たたずまいを直すミーヤ。
 微妙にジャパニーズソウル宿ってるんだよなぁ。 俺もそれに倣って座りなおす。
「どったの二人して」
 腹をさする綾菜(おそらくでかいのが出たんだろう)が、俺達を不思議そうに見る。
 俺達は顔を見合わせ、それから交互に口を開いた。
「実はワタシ達」
「結婚します」
 バシバシバシバシ。 ミーヤが赤い顔をして、俺をクッションで何度も叩いた。
「それはちょっと早いかなー」
「ノ! 違うンです! ワタシは狩人なんです! コノッコノッ!」
 俺を叩きながら、必死で弁明するミーヤ。
 それを聞くと、綾菜が一瞬固まってから微笑んだ。
 何だその反応。 もしかして意味が分からないのか? などと俺が、叩かれながら綾菜の様子を見ていると。
「やっと言ってくれたね。 そう、私が占い師だよ」
 彼女は、自分の口で確かにそう言った。
 予想通りだというのに、俺もミーヤも固まり、言葉を失ってしまう。
「ご、ごめんね。 自分からは言い出しちゃいけないことになってて」
「いえ! 任務ならしょうがないデス!」
 謝る綾菜に、ミーヤが首をぶんぶんと振った。 髪がばっさばっさと俺の顔を叩く。
 だがそれも気にならないぐらい、俺は未だに信じられない気持ちでいっぱいだった。
 俺の片割れ……俺が一応、まがりなりにも憧れ、真似してきた相手が占い師?
 俺みたいな化け物を告発し、殺させる役目の……。
「あふん」
 暗い瞳になりかけた俺を、綾菜の色気の無い素っ頓狂な声が引き戻した。
「な、なんだよ」
 あ、ミーヤが目を見開いて頬を紅潮させてる。
「いや、ちょっとお尻に未知の感覚が……」
「痔じゃねーのか?」
「違うって。 あー、大輔ちょっとカッター取って」
 言われるがまま、俺はペン立てからカッターを取り出し、綾菜に手渡した。
 受け取った綾菜は立ち上がると、こちらに尻をむけソファーをペタペタと触る。
 そうして、カッターの刃を出すとソファーを縦に切り裂いた。
「あ、お前何してんだよ! それカーチャンが前の恋人に買って貰った奴で……」
「その話する度、お父さんが微妙な表情するから良いんだよ。 と、あった」
 前の恋人との思い出のようにヘタれた綿と共に、綾菜がその中から何かを取り出す。
「何それ」
「盗聴器」
「……」
 綾菜の指には、黒いマッチ箱のような物が摘まれていた。
 それが、盗聴器? ということは今までの会話が筒抜け?
 今綾菜とミーヤが、お互いに占い師と狩人だってカミングアウトしあったぞ?
 俺は綾菜の手から盗聴機を受け取り、床に叩きつけた。 更に足で念入りに潰す。
「やばいじゃねぇか!」
 状況を正しく把握し、俺は悲鳴を上げた。 こんな物仕掛けるのは蛇に決まっている。
 よりによって一番聞かれたくない所をピンポイントで聞かれてしまった。 俺の提案が完全に裏目に出た形である。
「ドウシヨウ……」
 先程まで綾菜の尻を見て赤い顔をしていたミーヤが、今は血の気を失っている。
 守るべき占い師を自らの行動で窮地に追い込んでしまったのだから、当然だろう。
「まぁまぁ、しょうがないって。 一致団結して事に当たっていこうよ」
 その彼女を綾菜が慰める。 お前の尻の感度がもう少し高ければ、とは俺も言わない。
 そうだ、たられば話をしてもしょうがない。 今は前向きに打開策を……。
「という訳で、大輔はお疲れ様」
 が、そんな決意をした俺の出鼻を、ケツのでかい綾菜がくじいた。
「え、いやちょっと待てよ!?」
「だって大輔は役立たずじゃん」
 ばっさりと切り捨てられ、俺は言葉に詰まる。
 ミーヤに言われた時は綾菜を理由に使ったが、本人の前でそれは通じないだろう。
「これから私ら、確実に狙われるし。 大輔だって危ないんだから」
 綾菜はそう言うが、だからこそ、もっと放っておく訳にはいかないのだ。
 何か、何か二人の為に俺ができることは無いか。 俺は必死で頭をひねった。
 その末、一つの事を思いつく。 そしてそれをよく検討しないまま、口に出した。
「俺が影武者になる! お前の」
 綾菜を指差し、叫んだ俺に、綾菜とミーヤが固まる。
「えーと、大輔が女装して私の代わりになるって?」
「いくら双子でも、ダイスケと先輩じゃ……」
「いやいける! 去年の文化祭だって大丈夫だったし!」
 内心この提案は無いと自分でも思ったが、もはや押し切るしかない。
 それに俺には、自分の女装が通用すると確信する出来事があった。 あって欲しくないが、あった。
「あー、女装カフェね」
「ジョソウ、カフェ?」
「そう、去年私らのクラスは、女装カフェってのをやってね。 食事してるお客さんの所に、女装した男子が不意打ちに行って口のもの吐かせるって企画だったんだけど」  
「ハァ……」
 何が何やらという声を出すミヤビー。 誰だってそうだろう。 こいつがそんな企画を発案した時は、俺もそんなリアクションをした。
「まぁそんな抱腹絶倒の企画だったけど、大輔の時はノー笑いでした」
「ナゼ?」
 ミーヤの疑問に、綾菜がニヤけた面をする。
「普通に綾菜だと思われたからだよ」
 何か余計な事を言われる前に、俺が渋面でミーヤに答えた。
 そう、俺はその女装カフェで、正体を知られること無く――というかやってきた他校生にナンパまでされながら最後まで女として過ごしたのだ。
「……ウソ?」
 ミーヤはやはり、疑いの目をやめない。 男性フェロモン漂う俺の雄姿ばかり見てきたせいだろうか。
 これは、見せるしかあるまい。 そう決意すると、なにやらメラメラと燃えてきた。
「ちょっと待ってろ! 女装一式部屋から取ってくるから!」
「アルンダ……」
 更に俺への軽蔑の目を強めるミーヤ。
 いや、普段から女装してる訳じゃなくて、去年のがあるだけだからね。
「それと綾菜。 制服貸して」
「いいけど大輔」
「ん?」
「スネ毛剃ってね」
「……分かった」
 一応女装までは許可されたという事だろう。 笑いものにされるだけで終わらないように、俺は気合を入れて変装することにした。
 まずは風呂場に向かう。 父の髭剃りを使ってスネ毛等をジョリジョリ。
 一通り見えそうな位置の毛をそり終えた俺は、自室に入ると綾菜が持ってきた女子用の制服に袖を通した。
 何でも、協会の任務で破損した場合に備えて用意してあったのだと。 ……俺の知らない内に、あいつはそんな危険な事をしていたらしい。
 喜んで良いのか複雑な所だが、サイズにも問題は無い。
『人が女装していくザマって』
『あまり見たくない光景ね』
 双子が現れ、勝手に見ておいて勝手なことを言う。
「俺も、人生で十指に入る勢いで見せたくない」
 言い返すと、化け物でしょと双子は同じように笑った。
「つうか、せっかく居間に鞄置いてきたのに」
『占い師と同じ部屋になんて』
『いられるかー』
 俺が指摘すると、何の真似だか、今度は棒読みでそんな事をのたまう。
「そっか、綾菜がどう占うか聞き損ねたな」
 それを聞いて、俺はハッと思い出した。 そうだ、あいつが占い師だなんて事実に打ちのめされた直後に盗聴器騒ぎで具体的に占い師がなんなのか、綾菜に聞き損ねてしまった。
『良いんじゃない?』
『あそこで正体をバラされるよりは』
 そんな俺に、揃って足を組んだ双子が無愛想な顔で答える。
 あぁ、そうだ。 綾菜は、まだ蛇の正体はその、占えていないようだ。
  しかし俺についてはどうだろう。 あいつは、奇行を繰り返す俺を一度でも疑う事がなかっただろうか?
 もしや俺の正体は、既に綾菜に知られているんじゃないのか?
『スカートあげる途中で考え込まないで』
『不気味で仕方ないわ』
「だから見んなって!」
 指摘され、俺は急いでスカートをあげた。 ホックもちゃんと止められる事を確認。
 去年使ったカツラを手に、鏡の前へと向かう。 一発ネタで買うにしては割と高かった物で、出来も無駄に良い。 意を決して、俺はその毛先まで精巧なカツラを被った。
 ――そして、鏡に映る自らの姿を凝視する。
 うん、女の子には見えるだろう。
 自らの顔の間違った完成度の高さに、とても複雑な心境に陥る。
 だがこれで綾菜の代役ができるかと聞かれると、首を傾げざるを得ない。
 どうも何かが違うのだ。
 とりあえず、下品に見える口元を引き締めてっと。
 むにむにと、顔を揉みながら笑顔に近づけていく。 女の子っぽい表情、ひいては、綾菜っぽい表情へと……。
 そうしていると、なんだか不思議な感覚が沸いてくる。
 いくら偽者の面の皮とはいえ、揉んだからってそう簡単に形が変わる訳ではない。
 だが、その表皮に触れる指先の感覚があやふやになり、指が沈み込むような、逆にまったく顔に触れられていないような、そうやって、現実感が薄れていく。
 やがて、この、今鏡の前にあるものが誰の顔なのか分からなくなっていく。
 俺という存在が引き伸ばされ、希釈され、別のもの、俺にそっくりで、しかしまったく違う生き物に練り直されていく。 そしてそれを、俺は心地良いと――。
『『やめておきなさい』』
 双子の声が、まるで水面に落とされた雫のように響いた。
 俺は、ハッと我に返る。
「あぶねぇ、なんか今新しい扉開きかけたよ」
 冗談めかして笑うが、俺の笑顔ってこんな感じだっけ?
 違和感が消えない。
『貴方は貴方』『双子の姉でも人間でもない』
「わぁってるよ」
 分かっている。ずっと、多分心の底で期待して、裏切られてきたことだ。
 今更間違えたりはしない。
『ちゃんと自覚しなさい?』
『そうじゃないと』
『『私達みたいになるわ』』
 双子が、同時にニヤリと笑った。
 笑えない冗談だった。

「どうよ」
「うわぁ、引く」
「そういう感想じゃねぇよ!」
「あー、引くぐらい似てるって事」
 スカートを摘まみながら回って見せると、綾菜が感嘆半分、気持ち悪さ半分といった声を上げた。 ただし表情はどう見ても気持ち悪がっているので、まぁ大方はは気持ち悪がっていると思って良い。
「でも、去年より肩幅大きくなっちゃったかも」
 せっかくなので、肩を抱いて切なげに体を捻ってやると、綾菜も似たようなポーズをとって悶えはじめた。
「ギャー! やめてやめてやめて! 二の腕にサブイボと蕁麻疹でてきた!」
「ホホホ、それはBCGの痕ではないかしら、お姉様」
「きょえー!」
 奇声を上げ、ついにはのた打ち回り始めた綾菜を尻目に、俺はミーヤに微笑みかけた。
「これなら、お付き合いしてくださるかしら」
「え、あう……シ、しない!」
 あれ、普段なら一蹴されるところが、ちょっと間があった。
「ちょっと脈アリ?」
「脈無イ!」
「それじゃ死んでるみたいだよ」
 段々野生児みたいになってるな、この子。
 一応ドキッとさせたみたいだし、俺の女装も捨てたもんじゃない訳だ。
「でも、声が思いっきり男子じゃん大輔」
 ちょっと得意になっている俺に、綾菜が水を差す。
 無粋な奴め。 しかし俺はお前が指摘してくるであろう事柄は既に想定済みだ。
 俺は背後に置いた鞄をかかとでつつく。 それから背後に隠した指ででカウントを取り、合図をした。 指を全部折りたたんだ所で口パク。
「「あーあーあー、テステステス」」
 すると、背後の鞄から双子の肉声が響いた。 初日にこいつらに見せられたあの機能。 皮を喉に当て喋るという能力を利用したものだ。
「あら、立派な女声。 ちょっと舌ったらずだけど」
「デモ、ハウリングしてるような」
 言いながらミーヤが、辺りをキョロキョロと見回す。
 にゃろう双子ども。 片方ずつ喋れよと俺は再度鞄を蹴る。
「私、立島大輔」「女装大好き十七歳」
 今度はきちんと交互に喋ったが、内容が誹謗中傷だ。 強く蹴りすぎた報復らしい。
 案の定綾菜とミーヤが一歩引いた。
「いやいやいやいや、今のは冗談だから」
 背後を睨んでから、急いでフォローする。
 綾菜は距離を開けたままではあるが、大きく諦めのため息を吐いた。
 日ごろの行いのおかげだろうか。 ともかく女声が出せるって事は伝わった、ようだ。
「じゃぁ買い物行こうか」
「買い物? 何でこの格好で外出なきゃいけないんだよ」
「下着がまだっしょ」
「そこまでさせるか!?」
 すると今度は、別の無理難題を提案する。 やっぱり本気に取ったんじゃあるまいな。
「私のイメージに関わるし」
「トランクスだとはみ出したから、下は水着だぞ」
「何でそこまでスカート短くしてんの。ていうか水着も赤じゃん」
「お前赤だって持ってるだろ」
「柄は赤だけど、ベースはピンクじゃん」
「形際どいけどな」
「そうかな? 形は水色のやつの方がアブなくない?」
「ところでミーヤ鼻血大丈夫?」
「だ、大丈ふ」
 意外と大丈夫じゃなかった。 冗談のつもりだったのに。
 鼻を押さえるミーヤに小首を傾げた後、綾菜が言葉を続ける。
「それはともかく、人ごみに紛れておいたほうが良いと思うのさ」
「まぁ、それはそうだな」
「盗聴器だって、一個とは限らないし」
「おう、真っ当な意見だ」
 普段なら絶対にお断りなのだが、今回は女装自体がこいつを守る為のものである訳で。
 一緒に買い物って言うぐらいだから、この格好なら同行を認めるということだろう。
「……分かったよ。その代わり外で誰かにバレたら」
 コホンと咳をし、指を組み、さりげなく膝を曲げ、顎を引き、俺はミーヤに上目遣いの潤んだ視線を向ける。
「お嫁に貰ってね」
 顔は綾菜にそっくりだ。これで落ちないミーヤはおるまい。
「ヤダ」
 が、彼女は幼児のようにシンプルに答え、ミーヤは居間から出て行ってしまう。
 仕方ないので横にいる綾菜に同じような笑顔を送る。
「一人で生きて」
 こちらは、目も合わせずとっとと出て行ってしまった。
『私達も』『もらってはあげないわよ』
 双子が出てき、人が提案もしていない話を却下する。
「期待してねーよ」
 言い返すと、俺はスカートが翻るのも省みず、大股で二人を追いかけた。


次へ 戻る みみTOP TOP