メイドさん大王

調教!囚われのレッドマン! 


 長い長い夢を見ていた。そんな風に思う。どんな夢だったかは、とんと思い出せないのだけれど。
「平助様」
 短い、ともすれば冷たくも聞こえてしまう声が、僕の耳に届く。
 それを心地良いと感じるのは、きっと僕が彼女の声を聞いて育ってきたからだ。
「おはよう、心音」
 目を開けながらそう返すと、彼女は儚げに微笑んだ。
 見慣れた天井。柔らかい感触。彼女の太ももだ。世界は平穏に包まれている。
 おぼろげに、訳の分からない事を考え、もう一度眠りにつきそうになった僕だったが……。
「え、心音!? 何で!?」
 眠りに着く前、自分がしたというかされた状況を思い出し、慌てて跳ね起きた。
 彼女と向かい合うと、心音は少し佇まいを直して正座したまま言葉を返す。
「私は常に、平助様のお傍におります」
「いや、そういう概念的な話じゃなくて……」
 嬉しくはあるけれど、何か決定的にすれ違った発言だ。
 僕が聞きたいのはそういう事じゃない。
 僕は確か、百瀬さんにブレイクパーツとやらを装着させられ、キャノン状のそれが放った光弾で自爆して気絶したはずだ。
 それが何故、何事もなかったかのようにアパートへと戻ってきているのか。
「あの光弾に巻き込まれたのは、レッドマンのメンバーだけでした」
 僕がギィと言うだけで意味を分かってくれる察しの良さは健在らしい。
 心音は僕の疑問に答えてくれる。
 じゃぁその前のやり取りは? とも思うが、あれは多分心音流のお茶目だ。
 いや、もしかしたら決意表明かもしれないけど……。
「爆発を受けたレッドマンは全員気絶。我々は奴らを捕らえる事に成功しました」
「え、みんな大丈夫なの!?」
 と、そんなことを考えている間に、心音が大変なことを言っていた。
「はい。目立った外傷はありませんでした」
 それに気付いて僕が問いかけると、彼女は表情を変えずに頷く。
 良かった。無事だったんだ。
 ほっとため息をつく。
 でも、あのレッドマンが全員気絶か。やっぱり凄いんだなあのキャノン。
 ……全員? 何か違和感を覚えるが、まるで何年も期間が開いてしまったかのように、その正体を掴むことができない。
「ていうか、捕らえるって……捕らえてどうするつもりなの?」
 僕はとりあえずその釈然としなさを放置して、心音に尋ねた。
 敵対しているとはいえ、彼らは僕の友人だ。あまり酷いことはしないで欲しいのだけれど……。
「レッドマンのメンバーは、現在調教による洗脳を施しております」
「心音ぇ!?」
 だが、心音の口から僕の希望とは真逆の言葉が出、僕は裏返った声を上げた。
「調教の様子がお気になられるのでしたら、アパートの庭で行っておりますのでご覧になってはいかがでしょうか?」
「そんな往来で!?」
「お望みでしたら、平助様自ら調教もできますが……」
「い、いやいいよ!」
 一瞬情操教育に良くない光景が頭を過ぎって、僕はそれを慌てて振り切った。
 モデルに心音が混ざっていたというのは、本人を前にしては絶対に言えない。
「どうかしましたか?」
 だけど、普段ギィだけで僕の心境を察することが出来る心音に隠し事などできるものだろうか。
 僕の動揺に気づいて、心音がこちらの顔をのぞき込んでくる。
 このまま見つめられていると、何を考えていたか本当にバレてしまいそうだ。
 翔子ちゃん達も心配だし……。
「とにかく様子を見てくる!」
 言って、僕はバネ仕掛けの人形のように立ち上がる。
 そして心音に背を向け、すぐ側にある玄関の扉を開けた。
「……あれ?」
 そして、ドアを開けるとそこにはメイドさんがいた。
 あれ? さっき僕は心音を置いて部屋を出たはず。
 そう思って振り返ると、確かに心音は部屋の中にいる。
 え、じゃぁこれは……誰? と、よくよく目を凝らしてみると、それは……。
「あんまり見てるとぶっ殺すわよ」
 いきなり物騒な事を言う少女。レッドマンイエローの翔子ちゃんだった。
「え、何その格好?」
「調教です」
「調教言うな!」
 ぼんやりとした頭のまま僕が尋ねると、心音が答える。
 それに対し、目の前の翔子ちゃんがツッコミを入れた。
「この品のない女に召使としての心を植えつけ、平助様に服従するよう教育しているところです」
「あぁ、調教ってそういうことだったんだね」
 後ろで解説してくれる心音に対して、安堵の息を吐く僕。
 なんだかそれはそれで恐ろしい事を言ってるけど、まぁそこは気にしないでおこう。
「……何想像してたのよ」
「え、あ、いや……ハハハ」
 僕が先ほどしたやましい想像を悟ったのか、翔子ちゃんがぐいっとすごんでくる。
 メイド服を着ていても、こう睨まれると怖い。
「なんつーか、おしおきプラス罰ゲームって奴だな」
 その時、今度は聞き慣れた男性の声が聞こえた。
 翔子ちゃんから首ごと視線を逸らし、その後ろにいる人を僕は視界に収めた。
「健ちゃん……ぶっ」
 途端、僕はつい吹きだしてしまった。
 何故ならレッドマンレッド。健ちゃんが、心音や翔子ちゃんと同じ格好……つまりはメイド服を着ていたからだ。
「何その格好!?」
「おーおーお前が驚いてくれると、こっちも着た甲斐があるってもんよ。ていうかそんぐらいしか慰めが無ぇ」
 半ばやけくそと言った感じの健ちゃんが、手にした箒を担ぎながら唇を歪める。
「執事姿も考えたのですが、服装の替えが無かったので共通でメイド服にいたしました」
 背後の心音が、立ち上がりながら解説した。
「あ、じゃぁこれ心音ちゃんのお古?」
「新品です」
「……ですよねー。俺別に古着趣味無いからいいけどさ」
 言いながら、そのわりにはがっくりとうなだれる健ちゃん。心音の着替えは基本的にメイド服ばかりで、戦闘などで破損した場合に備えてストックも沢山あるのだ。
 メイド服のずらりと並んだ我が家のクローゼットに思い出す僕。
 と、健ちゃんのさらに斜め後ろに、小さな人影がいるのが目に入った。
「サイズが大きいんですよね、これ」
 そこには小さな美少女……ではなく、メイド服を着たレッドマンブルー、悠二くんがいた。
「こんな格好、変、ですよね」
 悠二くんがメイド服の裾を摘みながら、上目遣いで僕に尋ねてくる。
 その長い睫や丸い頬を見ると、どう見ても女の子にしか見えない。
「に、似合ってるよ」
 どうコメントすべきか迷った末、結局思ったままを告げる僕。
「あ、あの、ありがとうございます」
 すると彼は、赤みがかった頬をさらに紅潮させて俯いた。
 ……あれ?
「うちの弟を変な趣味に引きずり込むのはやめてくれる?」
「してないよ!」
 健ちゃんがジト目でとんでもないことを言うので、僕は慌てて抗議した。
 引きずり込むと言われても、そもそも僕にそんな趣味はない。
「ふぅん……」
 意味ありげな声を上げる翔子ちゃん。
 なにを納得したっていうんだろう。
 と、そこまで考えて僕はようやく気づいた。
「あ、翔子ちゃんも可愛いよ」
「はぁ!?」
 僕が言うと、翔子ちゃんが裏返った声を出す。
 翔子ちゃんの姿にコメントしないで、男の子である悠二くんにあんな事を言ったせいでこの眼差しを向けられているのだと思ったんだけど、どうも間違ったらしい。
「そんな事言って欲しいなんて思ってないわよ!」
 ごすっと鈍い音を立てて殴られた。 
 普段強化スーツを着ていた時も手加減してくれていたんだなぁと思わせるような、重い一撃だった。
「ご主人様に手を上げるとは何事です!?」
 そんな翔子ちゃんに対して、心音が立ち上がって声を荒げる。
「うっさいわね! こいつがいきなりか、か、可愛いとか言い出すのが悪いんでしょ!」
 すると翔子ちゃんは僕を押し退け、靴を荒々しく脱ぎ捨てて心音へとずんずん向かっていった。
「それの何が悪いのです。私は滅多に言われないというのに……!」
「あぁ!? あんたの嫉妬なんて知らないわよ!」
 がっつりと手を組んだ二人は、そのまま力比べを始めてしまった。 
「懲りないねぇあの二人」
 喧嘩を始めてしまった二人に対し、健ちゃんが呆れたような顔でつぶやく。
 まぁ銃火器が出なければ微笑ましい範疇に入るのかな……。
 そんな風に、僕は自分を納得させた。
「あの、健ちゃん」
 それから、ふと思い出したことがあって僕は健ちゃんに呼びかけた。
「ん、個人的なご奉仕ならしないぞ?」
「……意外とノリノリなんじゃないの健ちゃん」
 スカートを摘みながら嘯く健ちゃんに、そうじゃなくてと否定してから、僕は改めて尋ねた。
「百瀬さんは……?」
 健ちゃんがこうなった元凶。レッドマンホワイト、百瀬さんの姿が見えない。
 彼女の姿を探していた僕だったが、庭にはいないようだ。 
「あぁ、百瀬なら二階で窓拭いてっぞ」
 言われ、僕はアパートの二階を見上げた。
 あちらもまた、ポロームの怪人さんたちが住んでいる僕らの隠れ家だ。
「俺らの特別奉仕タイムって事で、怪人たちは全員出かけてるらしいぞ。健康診断するんだと」
 件の怪人さん達はどうしたのだろうと僕が疑問に思っていると、健ちゃんがその疑問に答えた。
「あぁ、月に一回やるんだよね」
 そういえばそんな時期だった。
 怪人さん達は特異な体つきのおかげで、思わぬ異常に見舞われることがあるのだ。
 なので一ヶ月に一回、定期検診を行うことになっている。
「福利厚生しっかりしてんのな、おまえの組織。うちもたまにめんどくさい検査とかあるけど」
「心音の提案だよ」
「立派に大王もしてるのね、あのメイドさん」
 未だに力比べをしている心音を見ながら呟く健ちゃん。
 確かにあの姿を見ると、とりあえず悪の大王には見えない。
 貞淑なメイドにも、ちょっと見えづらい事になっているけれど。
 そんな心音の様子を眺めてから、僕は改めて健ちゃんのほうに視線を向け、彼に頼んだ。
「ごめん、ちょっと百瀬さんと話があるから、誤魔化しておいてくれるかな?」
 すると健ちゃんは軽く目を見開いてから、にやっと笑って僕に言う。
「個人的なご奉仕を受けに行くのか?」
「あのね健ちゃん」
 半眼になって僕が抗議しようとすると、健ちゃんは分かってると僕を制した。そして、やけに真剣な表情になると僕に言った。 
「冗談だよ。ばしっと男のけじめをつけてこい」
「いや、そういうのとも違うんだけど……」
 なにやら深く頷く健ちゃんの言葉を、僕は曖昧に否定した。
 そう、そういうんじゃない。ただ、ちょっとしなければいけない話をするだけだ。
 ともかく、健ちゃんに礼を言うと、僕はこっそり二階へと上がった。


 二階に上がると、僕は左端にある部屋をノックした。
 留守とはいえ、いや、留守だからか勝手に部屋に入るのは躊躇われる。
 端から当たりが引けるまでそれを続けようと考えていた僕だったが、一つ目で「はぁい」という甘ったるい返事が返ってきた。
 当たり……ここに彼女がいるようだ。
 失礼だとは分かっているけれど、なんだか猛獣の檻に自分から入る気分だ。
 しかしじっとしていてもあちらからドアを開けてくれる様子はない。意を決して、僕は、部屋の中へと入ることにした。
 さて、部屋の中。……言い忘れていたけど、この部屋はポローム幹部、バウバウさんの部屋である。
 成人男性の貧乏暮らしの平均通り、中は三割ほどの床が私物で埋まっていて、後は毛玉。時折聞こえる僕と心音の会話が精神をかき乱すのか、壁にはいくつかひっかき傷がある。
 その辺の惨状を総スルーして、彼女は熱心に窓を磨き続けていた。
 メイド服をまとったお尻が、必要以上に揺れている。
「あの、百瀬さん」
 そこへ誘導されてしまった自分の目を恥じてから、僕は彼女に声をかけた。
「あらご主人様。この卑しいメイドめに何か御用ですか?」
 すると百瀬さんは、窓に手をついたまま顔だけをこちらに向け、そう尋ねた。
 ここに心音がいたら、ご主人様に尻……を向けるとは何事かと怒っただろう。
「あー、えーと……」
 少々話を切り出し辛く、言葉を濁す僕。
「個人的なご奉仕ですか?」
 すると百瀬さんはにっこりと笑いながら、先ほど他の誰かさんに聞いたセリフを口にした。
「一日に三度もその言葉を聞くとは思わなかったよ」
 距離的にここから健ちゃんとの会話が聞こえていたとは考えづらい。
 メイド服を着ると誰もが言いたくなるセリフなんだろうか。
 そんなことを僕が考えていると、百瀬さんはいつもの笑顔から更に目を細めて僕に言った。
「まぁ、そういったことはメイドさんが許さないでしょうね。嫉妬などの理由ではなく……」
 いったん言葉を切り、百瀬さんは抑えきれないかのように口の端を持ち上げる。そうして、改めて体をこちらに向けて言った。
「私達は協力関係ですからね。この辺りのおしおきが、限界でしょう」
 その言葉を、僕は苦い気持ちで受け止める。
 百瀬さんは言っていた。レッドマンのスーツのテストをする代わり、心音……僕たちの悪事は見逃されているのだと。
 そして、心音はそれを承知しているらしい。
 だから例えば、今日のようにレッドマンを捕獲することができても、彼らにあまり非道いことは出来ないのだ。
「何なら、平助さんがしますか? 個人的なおしおき」
「……いや、そういうのはいいよ」
 何なら、そういうことを許してやっても良い。そんな笑顔で彼女は僕に尋ねた。
 それに対し、僕は首を振って拒否する。
 今まで散々振り回されてきた僕だが、もう、いや、やっと、決めたのだ。
「僕が今心音に悪の組織を辞めさせても、僕たちは捕まって、もうちょっとひどいお仕置きを受けるんでしょ?」
 僕が多少意地悪く尋ねると、百瀬さんは首を捻ってとぼけた。
 でも、それぐらいのことは僕にも分かる。
 心音に今すぐ悪の組織を辞めさせる。それも一つの選択肢だ。
 僕が命令をすれば、心音はそれをしてくれる。
 それは、今回の件で僕にも分かった。
 でもそれではおそらく解決にはならないのだ。
 利用価値が無くなれば、僕らが放置される理由はない。
 そして百瀬さんの背後にいる組織が本気になれば、簡単に潰されてしまうのが心音の、僕らのポロームという組織なのだ。
 だからこそ、僕は。
「僕は、心音を支える。結果として、怪人になろうと、僕が首領になろうと」
 心音のやっていることが正しいだなんて、そんな風には僕にも思えない。
 見かけどおり、僕らが悪の組織であることには変わりないのだ。
 それでも僕は、精一杯に僕を助けようとしてくれる心音に報いたい。
 そう、思うのだ。
「お話はそれだけでしょうか、ご主人様」
 僕の宣言に対して、百瀬さんは笑顔のままそう返した。
 ただ、その声音には少々冷たいものが混じっている。
 いつもならその事に慌てる僕だけれど、今回は彼女を不機嫌にさせたことが何故か嬉しかった。
「うん、それだけ」
 微笑みながら答えると、僕は百瀬さんに背を向けた。
「そう簡単には終わりませんよ。きっと」
 そんな僕の背中に百瀬さんの朗らかな声が投げかけられる。
 もういつもの調子を取り戻したらしい。
「……それじゃ」
 それを振り切るように早口で告げ、僕は部屋から出て行った。
 そうして、後ろ手にドアを締めて深呼吸。
 今まで口に出したことは無いし、この決意が出来たのだって、言うなればついさっきだ。
 だけど、多分これで間違いは無い。いや、これが僕が一番歩きたい道なんだと思う。
 そんな風に考えながら、僕が顔を上げると。
「平助様」
「うわぁっ!?」
 目の前にいつの間にか、心音が立っていた。
 その顔はいつも通り。いや、いつも以上に感情を殺したような無表情で、彼女の気持ちを推し量ることは出来ない。
「も、もしかして聞いてた?」
 しかし、心音の表情を固くする原因はあるはずで、僕はそろそろと問いかけた。
「お見せしたい物があります」
 しかし心音はそれに答えてはくれず、そう言うと横を向き、廊下を歩いていってしまう。
「あ、心音!?」
 それとももしかして、僕が百瀬さんと部屋の中で良くないことをしていたとか誤解しているのだろうか。
 いや、あの爆発の前に誤解は解けたし、そんなことはないはず。
 思いながらも落ち着かない気持ちになり、僕は早足で心音の後を追う。
「あの、心音?」
 僕が追いつくのと、心音が足を止めたのは同時だった。
「こちらへどうぞ」
 そう行って心音が扉を開けたのは、二階反対側の角部屋。
 確かここは空き部屋になっていたはずだ。
 見せたい物って何なのだろう。
 疑問に思いながらも、僕は部屋の中に入った。
 畳張りの室内はがらんとしていて、家具一つ置かれていない。
 しかし誰も使っていない空き部屋だというのに、埃も一切落ちていないのが不思議だった。
「平助様。こちらに立って下さい」
 室内を僕が見回していると、心音が部屋の隅に移動し、その一角を手のひらで指した。
「え、あ、うん」
 百瀬さん辺りにやられたら不審に思うだろうけど、心音なら大丈夫。
 うん、ひどいことにはならないはずだ。
 未だに決心が決まりきらない自分を叱咤して、僕がその場所に立つと。
「失礼します」
 言って、心音が僕と同じ畳の上に乗る。
 胸が触れ合いそうな距離だ。
 そのことに僕がドキドキとしているとーー。
「平助様……」
 心音が少し背伸びをし、僕に顔を近づけてくる。
 彼女は腕を伸ばし、その手は僕の首の後ろに……。
「少々揺れますので、お気をつけ下さい」
「へっ?」
 目をつぶるかつぶるまいか。
 混乱した頭でその二択を激しくシャッフルする僕に、心音がそう言った。
 僕が間抜けな声を出した直後、背後でポチっという音が響く。
 上半身をひねってそちらを見ると、木で出来た柱の一部が切り取られたかのように窪み、その下に赤い丸ボタンがあった。
 それを、心音の指が押している。
 心音はこれを押したかったのか。って、何でわざわざこんな体勢で。
 なんて僕が考えていると、ゴッゴッゴという音が室内に響き始めた。
 そして地面が、いや、僕らの立っている畳が徐々に沈んでいく。
「え、わっ、どうなってるの心音!?」
「大丈夫です平助様。私がついています」
「嬉しいけどそうじゃなくて!」
 ずれた答えを返す心音。確かに世界中の何より心強いけど、この場合はそういうことじゃない。
「ちょ、わ、わーーー!」
 悲鳴を上げながら、僕の体は心音と共に地下へと下降していった。

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