VS
その2の中・・・『目つきの悪い男煉獄』
「大変なんだな、お前も」
俺は、うずくまる男の背を叩いた。何だがこいつとは、魂の絆で結ばれている気がする。
「・・・お前に何が分かる」
「分かるさ」
俺はしみじみと思い返した。朝は寝ぼすけな従妹を様々なネタで起こし、年齢不詳の叔母が放つ謎ジャムを避け、遅刻ギリギリになりそうになりながら
走り、時にたいやき娘に妨害され、アンテナ男とともに果てしなくボケ、ツッコミを食らって死にかけ、昼には寒くてもバニラアイス。重箱弁当を帯剣少
女と取り合い、放課後はイチゴサンデーを奢らされ、何かわからない探し物を探す。夜も夜とて居候のいたずらに魔物退治。休む暇も無い。
あえて口には出さないが、俺の目を見れば、この目つきの悪い男も電波を受け取ってくれるはずだ。
「そうか、分かった」
「分かってくれたか」
さすが電波。勉強はカバーできなくとも、友情は育めるものらしい。
「いや、お前全部自分で言っているからな」
「やっぱりか・・・」
自分でも薄々知っていた。電波が使えるなら、このゲームの主旨も変わってしまっていただろう。
「もしかして、わざとか?」
「いや、自覚症状がまるで無い」
「そのほうが哀れだな」
哀れまれてしまった。しかし、気合でカバー。SP40消費。
「ところで、俺を目つきの悪い男と呼ぶのはやめろ」
どうやら、そこも喋っていたらしい。
「わかったよ、ヒイロ」
「それも違う」
「俺は相沢祐一。好きな言葉は怠惰、堕落、デストロイだ」
「先に言うな。俺が言おうとしているのに」
好きな言葉についてはツッコんでくれなかった。本当にそういう男だと思われているのかもしれない。ちょっと複雑。
「俺の名は、国崎住人。好きな言葉は感謝、感激、ジェノサイドだ」
・・・ジェノサイド、和訳すると皆殺し。皆殺しに感謝感激って、どんな情景だ。
とにかく、こいつはこういう男なんだろう。
「えっと、すみと?」
「違う、ゆきとだ。作者みたいな間違い方するな」
事実だ。何せあいつは間違えたままエンディングを迎えた。
「分かったら、金くれ」
「無い」
まだ諦めていなかったらしい。俺も秋子さん仕込みの即答で答える。
「・・・晴子の回し者か?」
「誰だ、それ?」
よく分からないことを言うやつだ。世の中に秋子さんと同等の即答をかます人間がいるのだろうか。
いるとしたら、そいつはきっと飲んだくれで、バイクで納屋に突っ込み、セクシーな話をやたらしたがる関西人だ。
なんとなくそう思った。
「何故ない」
「いちごサンデーに消えた」
食欲とは、げに恐ろしいものである。
「変わった趣味だな」
食ったのは俺ではないし、桃色メルヘン人形を持ち歩いているお前に言われたくない。
「自覚症状は無いんだったな」
目つきの悪い男の肩が震えている。どうやらまた口に出していたらしい。
「この服だって、俺の趣味じゃない。とある疑問系娘に着せられたんだ」
疑問系とは、「まじで?」とか、「うっそ〜?」とかを連発する、頭の悪そうな女子高生だろうか?
意外な特技ってやつだろうな。
なんとなくシャボン玉を作るのが得意そうだ。
「取ればいいじゃないか」
「駄目だ、爆発する」
「比喩か?」
「いや、この前本当に爆発するようになった。みちるめ・・・」
どうやらこいつも、女難の相が出ているっぽい。
ちなみに、みちると聞くと俺は殴られたように腹が痛くなる。ちょっとむかついた。
「いちごサンデーか。何でもいいから食いたい・・・」
男は力なくうなだれる。
「何も食ってないのか?」
「5日前から」
男の鬼気迫るオーラは、そこから出ていたのだろう。どっちにしろ目つきは悪いが。
「この町に来てから、死に物狂いで芸をしたのに、誰も寄ってこない」
それはそうだろう。さっきのこいつは、目つきが悪いランキングの上位に食い込んでいた。
アシオとタメをはれるだろう。
子供は間違いなく泣く。あゆや真琴辺りでも泣くかもしれない。
寄りたいと思うのは、よほど鬼畜、いや奇特な人間だろう。
「腹が減ってるのか?なら最適な食べ物があるぞ」
「何だ?」
「お前の周りにいっぱいあるだろ、白くて冷たい自然の恵みが」
「雪か?」
「雪だ」
男は地面を見て悩んでいる。てっきり吉本並みにずっこけてくれると思ったのに、実際かなり限界なのかもしれない。
「ぴこぴこ」
突然、俺たちの隣りに動く雪球が現れた。いや、白い・・・犬、なのか?これは。宇宙生物としておこう。
「ポテト!・・・いや、まさかな。奴と同じ種類なだけかも知れない。だが、あんな宇宙生物がごろごろしていていいのか?」
男はそれを見て、ひどいショックを受けたように後じさった。やはり、奴は宇宙生物らしい。確定だ。
「もしかして、田舎村では割とポピュラーな生き物なのか?」
男はかなり失礼なことを俺に聞いてくる。
「週に2、3回見かけるな」
「そうか、大繁殖はしていないのか。よかった!」
前半のセリフで男は宇宙生物の首輪を掴み、後半で大きく振りかぶり投げた。
おもしろいようによく飛ぶ。なんか、投げ慣れてる感じだ。
「知り合いか?」
「ちょっとな」
目つきの悪い男は、言葉を濁した。どうせ骨でもおごってもらったのだろう。
「やっぱり、雪はやだ」
「ふう、しょうがない。名雪にラーメンセットでもおごらせるか」
たまには、あいつにおごってもらってもいいだろう。事情さえ説明すれば、お人好しのあいつのことだ、5秒ぐらいかけて了承してくれるだろう。
「マジか!?」
唐突に、男の目が輝きだす。光り方が尋常ではない。今にも目からビームが出そうだ。
光らせ慣れているのかもしれない。さすが、芸で歩いてウン十年だ。
何が男の食指を刺激したのか分からないが、ラーメンセットは危険な気がする。
「あれ、祐一〜、何してるの?」
ちょうどいい所に名雪だ。早すぎる気がするが、部活は終わったのだろう。未だに部活着であるメイド服を着ている。
「そんなの着てないよ〜」
「ちょうど良かった、実は・・・」
読心術をした名雪を無視し、俺は事情を話した。隣りにいる飢えた獣が何時襲い掛かってくるか、内心ドキドキしている。
名雪のほうは、同情の視線しか送っていない。物怖じしないのは、やはり血か?
でもな、名雪。こういう時、そういう視線はかなり痛いんだぞ。
男も凹みかけている。
「・・・ごめん、私も今お金ない」
名雪が吐いたのは、衝撃の事実だった。
「いちごサンデー食べてきちゃった」
部活していちごサンデー食べて、何でそんなに帰りが早いんだ・・・。
「今日は部活無かったよ」
「そうだっけ?」
「先生が都合悪いんだって」
作者の都合が悪いんだろう。
「・・・ラーメンセット・・・違う、・・・ラーメンセット・・・無い」
目つきの悪い男も錯乱状態だ。
しょうがないので、俺たちは奴を放って置いて家に入った。
でも続く!!!