VS
その2・・・『目つきの悪い男地獄』
 
俺が下校しているときだ、そいつを見たのは。
 
・・・思わず体言止めを使ってしまった。たまに自分の才能が怖い。
 
とにかくそれは、俺が家の手前まで来たときだ。一人の男が雪の積もる路上に座り込んでいた。
 
そいつは手を前方にかざし、なにやら真剣な面持ちで集中している。
 
ハンサム星人の俺に匹敵するぐらいの美青年である。
 
ただ、目つきが凶悪で、路上にいたら『OH、まい同士!』とは声をかけづらい感じがある。
 
かけたことが無いが。
 
とにかく、その雪ぐらいなら溶かせそうな凶悪な視線を追ってみると、その先には人形があった。
 
俺の行く手をさえぎるように、道の真ん中で堂々と置かれている。
 
ここで選択肢だ。
 
1,男に話し掛ける
 
2,無視
 
3,謎ジャムを食べる
 
・・・何故か三番に脈絡の無い選択肢がある。しかも大きく。陰謀か?
 
少し迷ったが、俺は関わらない事に決める。相手は男だ。イベントはあってもロマンスは無いだろう。
 
余計なフラグは立てないに限る。
 
そう思い、俺が人形を跨ごうと足を一歩踏み出したときだ。
 
人形がひょっこり立ち上がった。
 
そして、それは意思を持ったかのようにとことこと歩き出した。
 
俺は別段驚かない。最近妖狐とか、魔物とか、アンテナとか、理解の範疇を越える出来事が多発しているのだ。
 
人形が動いたからといって、奇面組がガンガンで再開したときの驚きに比べれば、たいした事はない。
 
ただ、股の下で動き回られるのはちょっと困る。
 
だが、一度選んだ選択肢はロードをしなければ変えられないのだ。
 
セーブをしなかった俺は、そのまま直進することに決める。
 
しかし、そんな俺の足に人形がまとわりつく。
 
つぶらな瞳の人形だ。手入れをされているのか、結構きれい。
 
おまけに、厚手のフリフリピンクドレスは、ファンシー&メルヘン&一世代前アイドル調で、軽くひく
 
ましてや、この目つきの悪い男の所持品だとすると、思いっきりひく
 
俺は見たくなかったが、男の顔を見た。すると男も手をかざしたまま俺を見ている。なんか笑ってるが、邪まな笑顔だ。
 
擬音的にはニタ〜だ。
 
真琴がいたずら直前に浮かべる微笑を、10000000000000000000000008の10乗邪悪にした感じだ。
 
名雪と比べたりしたら、それだけでこの話が終わってしまう。
 
このプレッシャー、只者ではない!!こういう時に、このセリフは使うものなのだろう。
 
ありがとう、キャスバルレムダイクンさん。
 
「・・・見たな」
 
目つきの悪い男がつぶやいた。顔を見られてしまった美少年MS乗り工作員のような声だ。となれば、次のセリフは決まっている。
 
『お前を殺すだ。
 
「ツインバスタ○ライフルはやめてくれ。せめてサ○フラッシュにして欲しい」
 
俺は味方を巻き込むMAP兵器より、地球に優しいほうを希望した。
 
しかし男は、俺のほうをジト目で見ている。目つき的にはより凶悪だ。食われるかもしれない。
 
「宇宙語を使うな田舎リアン。俺は人形芸を見ただろうと言っているんだ」
 
ち、ネタのわからんやつめ。しかし、初対面の人間を田舎リアン呼ばわりとは不届き者。
 
俺はちょっと前までバリバリ都会リアンだったぞ。この言葉は語呂が悪いな。
 
「見ただろう?」
 
そんな俺に、目つきの悪い男は思いっきり凄む。
 
俺も魔物と互角(?)に渡り合ってきた男だが、正直びびった。
 
「それと、目つきの悪い男とか言うな」
 
「読唇術!」
 
「お前の場合、唇だけじゃなく声まで出てる」
 
「誤字だ、気にするな」
 
俺はびびっている。
 
「とにかく、見たんだな」
 
選択タイム
 
1、見た。
 
2、見てない。
 
3、刻が見える。
 
4、ごまかすために謎ジャムを食べる。
 
!、普段無い4の選択肢がある。個人的には3だが、通じそうも無いので、あえて2を選ぼう。
 
「見てない」
 
「嘘をつくな、見ていただろう」
 
「実は俺の目は義眼なんだ。昔妖怪にとられてな」
 
「どろろか」
 
どうやら、手塚作品には詳しいらしい。ジェネレーションギャップか。
 
「見えてるように思えるぞ」
 
心眼だ。つらい修行の末、目が無くても見えるようになった」
 
「見えてるんじゃないか」
 
「しまった」
 
この男、なかなかやるな。
 
「見たらなんなんだ」
 
「金出せ」
 
「かつあげか!?」
 
「人聞きの悪いことを言うな。芸を見たら金を払う、世の中の常識だ」
 
俺の常識だと、こういうのをボッタクリというのだが。
 
「内容にもよるだろう」
 
「何が不満だ。俺の法術を見ておいて」
 
ここで、「法術?」などと在り来たりなことを聞いてはいけない。
 
それでは奴のペースだし、第一俺にはこれの正体が分かっている。
 
ずばりだ。多分、操作系だろう。具現化系の可能性も否めないが。
 
「つまらん」
 
「なにぃ!」
 
俺の核心をついた発言に、男は大きな衝撃を受けたようだ。
 
がくりと膝を付き、小声でぼそぼそ言っている。
 
「ふふふ、知ってたさ、人形芸をやっても、いつも子供達がクールな視線で見てたことも。あの田舎村に行ってからは特にひどかった。人形を飛ばされたり、俺の芸よりカラスだったり、変なぬいぐるみと強引に取り替えられたり、食料なんて米だし・・・」
 
色々苦労しているらしい、この目つきの悪い男も。
 
ちょっと共感を覚える。
 
しかし、それが俺の運の尽きだった・・・。
 
続く!!
 

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