「Iam Not Heroine――僕らのモラトリアム」

 第四章 「Their Moratoriums」 その1


「ミニスカ!」
「ミニスカ!?」
「ミニスカ!」
 まるで出来の悪い悪の組織のように、絹子の言葉を三瓶が復唱し、もう一度絹子が応えた。
 昼休みの教室。もはやお馴染みとなった昼食時の出来事である。
「可愛かったよー。美冬ちゃんのミニスカ! そんな長いスカートに戻るなら、昨日の内に制服のスカートを切り刻んでおけば良かったと思うぐらい」
「そりゃ普通に苛めだろ。二度と履くかあんなもん」
「「えー、絶対勿体ないよ」」
 俺がうんざりしてそっぽを向くと、抗議の声が二重奏で帰ってくる。
「お前までハモんな!」
 俺は絹子と同時に同じことを抜かした貴人の頭をひっぱだいた。
「……勿体ない」
 すると静かに飯を食っていたゲヘナまでそんな事を言う。
「お前までかよ」
 なんかもう力がズルズルと抜け、俺は入っていた唐揚げを頬張った。
 あれからゲヘナは特に態度を変えた様子もなく、俺といつも通り話している。
 やっぱり気にしてないのか? 手を握るぐらい、異星では普通のコミュニケーションなのかもしれない。
 いやいや、地球でも普通のコミュニケーションだって。
 別に俺は、その、あいつに手を握られてドキドキしたり、変な気分になったりしてないし。
 とにかくそんな思いが邪魔をして、あの件に関して俺はゲヘナに弁解も釈明もできずにいた。
「でも、美冬ちゃん本当に可愛いんだからもうちょっと服買おうよぉ。毎回家に行くとパンツスタイルばっかりだし。タンスの中のも全部そうだったし」
「何時の間にチェックしてんだよ!?」
「じゃぁ今度私が、買ったはいいけど着たら社会的に終わると思ってタンスに仕舞っといた服をプレゼントしてやるのだ。チャリティーなのだ」
 パンダメイクになのだ口調のいつもの織江が、脳が溶けたような事を言いながら人の唐揚げに手を伸ばす。
「んなもんお前が着ろ。社会的に終わった後山奥でパンダの旦那もらって幸せに暮らせ」
「そういう自分こそ、農家に行ってその乳モーモー搾ってもらえばいいのだ」
 言い合いながら、俺はその唐揚げを全力で死守した。
「……ねぇアンタ達」
 そんな中、ふと、三瓶がこちらへと呼びかけた。
 視線をそちらにやると、その間に織江が唐揚げを奪取する。
「なんかいつの間にか仲良くなってない?」
 頬杖をついた三瓶は、ジトっとした目で俺達を見ていた。
「な、なってねぇよ、こんなクソ女! こ、このやろ返せ!」
「くぉふぉふぉー、私もこんな粗暴女を認めたわけじゃないのだー」
 肩を掴んで揺する俺と、それを受けながら悠々と唐揚げを租借する織江を見て、三瓶はふぅんと分かったんだか分かっていないんだかな息を吐く。
「何か絹子とも仲が良いみたいだし」
「そっちはなんていうかこう、玩具にされただけだ」
「あ、ひどいなぁ美冬ちゃん。あんな姿まで見せ合ったのに」
「見せ合ってねぇ! 俺が一方的に丸裸にされただけだろ!」
「うふふ、ごちそうさまでした」
 俺が悲鳴に満ちた抗議をすると、絹子はまだ中身の入った弁当箱を手に、そんな文言を言い放った。
「ま、丸裸……」
「想像すんなこのエロガキ!」
「裸より恥ずかしい格好だったよねー」
「誰がさせたと思ってやがる!?」
「あはははは、絹子、今度是非記録媒体に残してくるのだ」
「ちょっとアンタ達!」
 俺がアホ共への対応にてんてこ舞いになっていると、いきなり三瓶が立ち上がった。
 机を叩く彼女に、俺達は再び視線を向ける。
「私達は仲良しグループじゃないのよ! ライバルなの! アンタらたるんでるわ!」
 しん、と、俺達だけでなく教室中が静まり返る。
 それから、外野はひそひそとこちらを見つつ何やら囁き始めた。
 断片として聞こえるのは、「痴情のもつれ」だの「ついに来るべき時がきた」だのと多分不名誉なものばかりだ。
「る、瑠可ちゃん、落ち着いて」
「うぬ、ぐぅぅ……」
 貴人に宥められた瑠可が唸り声をあげる。
「知らない!」
 ついに爆発した彼女はそう叫ぶと、自分の弁当箱を掴み、教室から出ていってしまった。
「どうしたんだあいつ?」
 俺が問いかけると、ゲヘナと貴人は揃って首を傾げ、織江は難しい顔をし絹子は愛想笑いをする。
 誰も答えない、という意味では一緒だった。

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