「Iam Not Heroine――僕らのモラトリアム」
第一章 「I became Heroine」 その4
――その後いくつか質問をしている内に、俺達は件の場所についた。
交流の結果、こいつは本当にほぼ地球人と変わりがない事、漬け物、特にカブの塩漬けが好みだと分かったが、まぁ置いておこう。
「外見は普通の家だな」
俺達の前にあるのは、マンションから五分ほど離れた一軒家だった。見た目には宇宙人が住んでいるようには見えない。
「中身は響野邸の大黒柱、響野正則氏の労働の汗でできていますが。普通のサラリーマンというのは大変なのですよ」
「んなもんお前に言われなくても身に染みてるわ」
一々人の傷を抉ってくるカノヌに辟易して、良いから扉を開けろと促す。
彼女は慇懃無礼とも取れるほど恭しく一礼してドアの前に立ち、ドアノブの鍵を差し込む。
それから何回かドアノブを回して、呟いた。
「お嬢様方はもう帰って来ているようですね」
どうやら鍵が開いていたらしい。カノヌはそのままドアを開けて家の中へと入る。
すると――。
『うわぁぁ!』
ドタン!
いきなり、大きな悲鳴と物音が家の中に響いた。
「な、なんだ!?」
「二階ですね」
驚く俺とは違い、カノヌは冷静にそう呟くと靴を脱ぎ、通路の奥にある階段へとスタスタと歩いて行ってしまう。
慌てて後を追うと、彼女は二階に上がった所で体を壁に寄せた。
「この部屋です。どうぞ」
彼女が寄った反対側には扉がある。どうやら音の発生源はその中のようだ。
「な、なんで俺に譲る!?」
「良いから。手遅れになる前に早く」
「て、手遅れ!? くそっ!」
急に乱暴な口調になるカノヌにただならないものを感じ、俺は勢いよく扉を開けた。
一生懸命マイホームを建てた響野氏に、勝手に軽い尊敬の気持ちを抱いていたせいもあったのだ、が……。
「え?」
そこでは、黒髪の少女が線の細い少年に覆いかぶさっていた。
なんだもうよろしくやれてんじゃん俺の仲人なんて要らなかったんだと思いかけたがしかし待て俺が依頼されたのはあの腐れ宇宙人と同じピンク色の髪の少女だ。
少女のほうは俺に目もくれず、少年の首に両手を回したまま犬のようにふりふりと尻を振っている。
少年のほうは突然の闖入者である俺に対し言葉が出ないのかパクパクと口を動かしている。
いや、違う。手が地面をバシバシと叩いている。あれはギブアップだ。そしてあのパクパクは呼吸困難だ。
「ちょ、ギブ入ってるギブ! やめてやれ!」
状況は分からないが多分今一人の少年の生命が消えかけようとしている。
俺はとにかく側面に回り込み、左右に振られる女の腰を掴んで、引き剥がそうとした。
しかし女の腕は離れる気配がないどころか、俺の妨害によって更に力が籠められる。
やばいいきなり殺人現場に出くわしてしまった!
元は美少年だと思われる少年の顔が膨らみ赤から今度は青に染まっていく。
どうしよう、ていうかアイツは何を黙って見てるんだ。
俺は助けを求めて扉のある右側を見るが、そこにはすでにカノヌがいない。
絶体絶命。もしや俺はこの殺人計画の共犯者にでもされる為に呼ばれたのか。
あぁなんて遠回りな作戦なんだ。ちくしょうこれから女囚新井田シリーズが始まるのだ。
などと俺の頭が混乱の臨界点まで達した辺りで。
ドンッ!
とまた大きな音が響いた。
続いてバタバタと走る音。更には階段をすごい勢いで上る音。
ほどなく、その音の主が扉を掴み急制動をかけながら現れた。
女、また少女だ。
しかし髪の色は栗毛。長いポニーテールがダッシュの慣性でなびいている。
彼女は勢いをそのまま前方へと転換し、跳躍しながら叫んだ。
「この、色ボケェーーー!」
体重を乗せた蹴りは、女を掴んでいた俺の横っ腹に入った。
女を抱えたまま俺の体がぐるりと半回転し、その遠心力のまま抱えていた女を放り出す。
すると女も一回転した後、抱きしめていた少年を放り出した。
少年は壁にぶつかりゴンという音を立てて止まる。
「げほっ、げっな、なにしやが……」
謂れない罵倒を食らった上かなりいい蹴りをもらった俺は、四つん這いのまま止まらない横隔膜の反乱に喘いだ。
お、女が女にする蹴りじゃねぇぞ今の。
直前に縞の布のようなものが見えた気もするが、この仕打ちとガキのパンツ一枚ではまるで割に合わない。
しかしその少女はと言えば俺をピョンと飛び越えると、目をぱちくりとさせている黒髪の少女に掴みかかり、怒声を上げ始めた。
「アンタは隙があればいつもいつもタカ君を襲って、恥ずかしくないの!?」
「違うのよ瑠可ちゃん。私もそんなつもりは無いんだけど、タカちゃんを見てると突発的に愛が溢れちゃうのよ。ムラムラっと」
「だからそれは欲情の擬音だっていつも言ってるでしょ!」
目の前で呑気に漫才のようなことを始める二人組。直前までの行動はどちらもそんな呑気なアクションではなかったぞ。
タカ……どうやら押し倒されていたあの少年がターゲット、響野貴人で良いようだ。
何とか痛みから復帰した俺は、こちらも咳き込みながら四つん這いになった少年へと、喧嘩をしているバイオレンス少女達を迂回しつつ近づいた。
「おい、大丈夫か」
ひとまず背中をさすってやる。
少年は久方ぶりに吸えた新鮮な空気を過剰に吸っては咳を繰り返していたが、やがて落ち着いたらしく、多分先程ぶつけたのであろう額を擦りながら俺の顔を見上げた。
「あ、あの、君は……?」
その自信なさげな顔は美少年、もしくは捨てられた子犬の風情である。
先程まで青いマスクメロンのような顔をしていたとは思えない。
「あーえーっと」
しかしどう説明したものか。
今更女としての自分設定をまるで決めていなかったと気づき、俺がまともな言葉を口から出せずにいると。
バタン、どたどたどた。
先程より少々小さめにドアを開ける音、階段を上がる音が耳に届いた。
更にひょこっと顔を出す……またしても女。
今度は金髪である。
「タカぽーん! 遊びに来ちゃったのだっ」
あ、キツい。
発言自体も相当痛かったが、こいつ今片手片足上げてポーズ取りやがった。
しかも意外とデケェ。よく見ると顔立ちも悪くないのだが、目の周りに一昔前に流行ったパンダのような化粧を施しており、ほぼ台無し。
スタイルは足の長い美人系なのに、キャラとツインテールがまるで合ってない。
俺も自分のキャラ設定には気を付けようと切に思える好例だった。
女はわざとらしくキョロキョロと周囲を見回すと、少年に目線を合わせ笑顔になり、その背中に手を置く俺を見つけるとその笑顔をパッと消した。
「あなた誰? なのだ」
怖い。メイクで誤魔化そうとはしているが、本来の目の鋭さが隠しきれていない。
パンダが熊である事を思い知らされるような目である。
「え? あ、そうだアンタなんなのよ!」
その目に俺が怖気ていると、彼女の背後から声が上がった。
先程まで漫才をやっていたポニーだ。彼女は相方の黒髪をひとまず置いて、俺の方へとどたどたと歩み寄ってきた。
「え、あぁ俺は……」
「俺!?」
しまった。今俺は女子の格好をしてるっていうか完全に女子そのものなのだ。
金髪を押しのけ俺の発言を耳ざとく聞きつけたポニーが、驚愕の声を上げる。
「俺っ子だなんてあざといのだ!」
「お前にだけは言われたくねぇ!」
更には押しのけられた金髪が自らを省みない発言をするので、俺は思わず本音で言葉を返してしまった。
俺はお前と違って素だっての。思いっきり怖い目で睨まれるが知ったことか。
「あら、また増えたのね」
黒髪の女まで俺の顔を覗きに来る。そして彼女は、頓珍漢な事を言い出した。
それも俺の感想だったはずだ。ポコポコ増えやがって姦しいことこの上ない。
「何? アンタは何してもらったの? 落し物を拾ってくれた? 道を教えてもらった? 食べ物を恵んでもらった?」
「後は病気の父親を直してくれたとかなのだ」
「タカちゃんの顔に一目惚れとか」
やばい。話がまるで見えない。最近の若い女ってのは皆こうなのか?
今だかつて感じたことのない激しいジェネレーションギャップが、今まさに津波のように襲いかかってきた。
「どれにしたってもうタカくんの予約は満杯なの! ていうかアンタ何勝手に入って来てんのよ不法侵入じゃない! とっとと出ていきなさいよ!」
もしくはこの娘は何か世の中に恨みでもあるのだろうか。
瑠可と呼ばれた少女は更にヒートアップした様子で意味不明な事をまくしたてながら、俺に腕を伸ばしてきた。
その先には俺の胸。
まずい! 咄嗟にそう判断した俺は、思わず彼女の手を掌で受け止めていた。
「むっ!」
片手を封じられた少女が、反対の手を伸ばす。俺はそれも余った手で受け止めた。
「な、に、よこの手は!」
「お、お前がいきなり人の乳触ろうとするからだろ!」
ブラをしているとはいえ、あんな勢いで乳に触れられたらどんな痛みが体を襲うか想像もしたくない。
プロレスでいう力比べの形になったまま、俺は少女に抗議した。
「はぁ!? 誰もそんなの揉みたく無いわよ! ちょっと大きいのぶら下げてるからって調子乗ってんじゃないの!?」
「好きでぶらさげてんじゃねぇよ! 僻みか! ……あぁ僻みか」
よく見ればこの女、顔は悪くないがちびな上やせ過ぎだ。体のボリュームが圧倒的に足りていない。
「もいでやる……!」
だと言うのにこのパワーはなんだ!?
呟いた女が力を込めると、俺の手がじりじりと押され始めた。
俺が女子になってパワーダウンしているのか!?
いや、女の表情には何か底知れない怨念を感じる。実は女って奴はそこまで胸の大きさを気にしないって週刊誌にも書いてあったのに!
「あらあら」
「ちょ、ちょっと、あの」
他の少女達は楽しげにこちらを見守っているし、後ろの少年はオロオロしているしで、まるで役に立ちそうにない。
このままでは乳を思う存分弄ばれ、色気とは程遠い悲鳴を上げる羽目になる。
とにかく手を離さないようにしなければ……!
ガチ、ガチ!
俺が手に一層の力を込めると、女が歯を鳴らした。
この女噛むつもりか! ていうか食いちぎられそうな勢いである。
この過敏な体でそんな事されたら死んじまうだろ! 胸にでっかく注意書きしてあるんだから読めよ!
俺が迫る口に恐怖しつつ、頭の中で目の前の女を散々罵っていると。
「おやめください」
凛とした声が、室内に響いた。
その声に女の手が緩む。
俺はその隙に手をほどき、乙女の如く胸をガードした。
「その方は私の客人です。落ち着いてください」
少女達の隙間から、ピンク色の頭が現れる。
声の主はカノヌだった。
「アンタの客〜?」
それに対し、ポニーがあからさまに胡散臭げな声を出す。
カノヌもあまり良い印象を持たれていないようだ。
「はい、事情も説明しますのでとりあえず下がってください」
「……別に噛みつきゃしないわよ」
嘘だ! さっき思い切り噛み切ろうとしたじゃないか!
俺が心で叫ぶ中、少女はしぶしぶといった感じで二歩下がった。
「貴方はこちらへ」
更に俺を手招きするカノヌ。
ポニーの眼光に恐々としながら、俺はカノヌの隣に並んだ。
「白島様と桐生院様はもう少し近づいてください」
「あ、はーい」
「分かったのだ」
ついで、白島と呼ばれた黒髪の方の少女と桐生院と呼ばれたキツい方がこちらへと歩み寄ってき、あちらも三人が並ぶ格好になる。
「全員もう一歩左へ」
「はぁ? まぁいいけど」
「一歩、と」
「はい、非常によろしゅうございます」
言われた通り三人が移動すると、カノヌはポケットから何か取り出した。
そしてそれを、ぽいっと三人の足元に投げる。
「これは!?」
「げっ」
「あらら」
それは、ドアノブだった。先程カノヌが貯水槽から取り外したものだ。
確かアレを外した途端、ドアが消え失せた。
と、いう事はアレをつけられた場所は――。
「それではさようなら」
少女達の足元に、突如長方形の切れ込みが入る。
「うぎゃぁ!」
「キャーーー!」
「あららら」
バタン! という音と共に床が開き、二人は落ちて行った。
カノヌはよしと頷くと、穴の中に手を突っ込みドアノブを引っ張り上げ、それを外した。
床の切れ込みが消え、何の変哲もない風に戻る。
「だ、大丈夫なのかアレ!?」
「行先は数キロ先の男子トイレにしておきましたから、命に別状はありません。まったく懲りない方々です」
さすがに心配になった俺が尋ねると、カノヌはため息を吐きながらそう答えた。
彼女の口ぶりからして、これは日常的なやり取りらしい。
……そりゃ嫌われるわな。
ていうかあの別れ方は、俺に対しても思いっきり遺恨を残しそうなんだが……。
まさか即戻っては来ないよな。
思わず後ろを見る、と。
「うおっ!」
振り返った俺の胸辺りに、ピンク色の物体があった。
いや、頭だこれは。
しかし、ピンク頭のカノヌは部屋の中にいる。
という事は……。
「紹介が遅れました。その方が我が主、ゲヘナお嬢様です」
ソイツが顔を上げる。遠い遠い外国の湖のような深い碧の瞳の上を長い睫がより一層神秘的に見せる。髪よりもずっと上品に色づく唇。白い肌。
この安っぽいピンク色も逆にアリなんじゃないかと思えるほど、整った顔の美少女である。
「こ、こんちわ」
俺のストライクゾーンではないのに、思わず緊張した声を出してしまう。
すると彼女は。
「……コンニチワ」
とその可憐な唇を動かすと、もう俺には興味が無くなったとでもいう風に一階へと下りて行ってしまった。
無愛想、という感想の前に自分が何か悪いことをしたのではなんて考えてしまう。
美人というのはいくつだろうが宇宙人だろうが得なものだ。
女の体になってさえそう思う。
「お嬢様には居間で待っていてくださいと申し上げたのですが。貴方が心配で出てきてしまったようですね」
カノヌの声に振り向くが、俺に言った訳じゃないらしい。
相手はあの頼りなさげな少年だ。
「そう、なのかな?」
対して彼は、やはり頼りなさげな返事を返した。
こんな奴だが、カノヌの言葉を信じるならあのゲヘナとかいうお嬢様はこいつに惚れているらしい。
ていうか最初に部屋にいた黒髪はこいつを押し倒してたみたいだし、ポニテはこいつ絡みで俺にケチをつけてきたみたいだし。
それにあの瑠可とかいう娘は俺を見てまた増えた、なんて言っていた。
……なんというか、これはもしかして。
「詳しい紹介は後でしましょう。少々用意があるので、貴人様は先に行っていてください」
言いつつ、カノヌが俺に視線を送る。
「貴方はここに残ってください」
「あぁ、分かった」
俺がそう返事をすると共に、響野貴人はこちらに会釈をしながら部屋を出て行った。
「気づきましたか?」
彼が階段を下りるのを確認すると、カノヌは俺に唐突に尋ねた。
「……何が?」
先程頭に引っ掛かりかけたことはあるが、口に出せるほどまとまってはいない。
尋ね返すと、カノヌは若干真剣さを増した顔でまっすぐこちらを見た。
息を吸い、もしかしたらこの女俺を好きなんじゃないかと勘違いさせるほど見つめ合った後、ゆっくりと口を開く。
「あの男、響野貴人はラブコメ野郎なのです……!」
「はっ?」
発言の内容がよく分からず、一瞬奴の母星語かと疑ってしまう。
しかしそうではないらしく、カノヌは日本語で話を続ける。
「ラブコメディというジャンルをご存じないですか?」
「いや、聞き返したのはそういう事じゃなくて。まぁあんまり詳しくは無いが」
俺がそう答えると、カノヌはまるでそれぐらい知ってろよ。地球人の常識だろ。とでも言いたげな溜息を吐いた。
「それぐらい知っていてください。地球人の常識ですよ」
ていうか言った。
「はいはい、じゃぁ教えてください宇宙人様」
俺が両手を軽く上げて降参すると、彼女は仕方がないですねと指を立てて説明しだした。
「ラブコメディは創作に置けるジャンルの一つで、元々は恋愛に焦点を置いた喜劇という意味合いですが、私達の界隈では主に一人の男性、もしくは女性を複数の異性が奪い合う物を指します」
「界隈ってどこのだ。宇宙か? 宇宙にラブコメ派閥があるのか?」
「響野貴人はそれを体現した正にラブコメ野郎なのです」
「いや、殺されかけてたぞアイツ」
俺が先程の状況を思い返しながら言うと、カノヌは立てた指をちっちっちと振った。
無表情なのがまたムカつく。
「それはあの男が更に他の女子の同情を引く為の常とう手段です。それに引っかかった女子がどれだけいる事か」
「……あの三人娘以外にもいるのか?」
「あれはその中でもより深くあの男に引っかかっている――言わばキモ辺りまで釣り針が引っかかっている性質の悪い連中です。他にも有象無象があの男に惚れております」
「性質が悪いってのは同意だが……そんなにモテるのかあの少年」
確かに線の細い美少年だったとは思うが、俺が高校生の頃なんかは背の高いバスケ部辺りの連中がモテていた記憶がある。
特別トークが上手いという印象でもなかったし、本当に何なんだ?
「何か悪い宇宙線でも浴びたのではないかと目下調査中です」
「だとしたら原因はお前だろうな……」
まぁ、モテる奴の法則など俺に分かるはずもない。
俺は考えるのをやめ、とりあえず話をまとめる事にした。
「とにかく、ライバルが多すぎるせいであの貴人って奴とお嬢様がまるで進展しないと、そういうことか?」
「その通りです。ですから貴方には各邪魔者への妨害と、お嬢様へのサポートの両面から任務達成に尽力していただきます」
「そういうのって、普通契約前に言うだろ」
「よく確かめない方が悪いと、私達の星ではこういう時に言います」
ぐっ。俺達の星でもそう言うな。
言葉に詰まった俺を見、話は終わりだと判断したらしいカノヌが後ろを向き階段の方へと向かう。
「お嬢様がお腹を空かせておいでです。早く戻りましょう」
「へいへい……くそぅ」
もはや言葉もない。小さく悪態をつくしかなくなった俺に、カノヌが振り向いて口を開く。
「あぁそうだ。一つサービスをつけましょう」
「あ?」
「夕食代はこちらで持ちます。存分に味わってください」
あまりに素晴らしいお言葉に、思わず間抜け面になってしまう俺。
そんな俺からついっと視線を逸らし、カノヌは階下へと降りて行った。
「……金取る気だったのかよ」
そう言うからには精々腹いっぱい食ってやろう。決意して、俺もまた部屋を出た。
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