祐ちゃん日記〜オチ
「それは、7年前に祐一さんが宿題で書いたものだからです」
唐突過ぎて、今誰もついていけなかったかもしれない。
前回の続き、しかも引いた内容を、秋子さんは一行で言ってしまった。
俺の説明のほうが長いくらいだ。
「宿題、ですか?」
そう言えば、俺が小学生のとき、日記の宿題が出た。 普段ならかったるいから、適当に書く。
最後の日に宇宙人やスタンド、さらに全長140mジャストを誇りながら、MSだと言い張るびっくり兵器ガンダムGP−03デンドロビウムを登場させ、富野監督がランバダを踊りだし、全世界の同人作家が感涙するような萌えスペース大河浪漫という、新ジャンルを確立させる感じだ。
みんなの評価はいつも「ネタが分かりません」「あなたはいくつですか?」「メカ娘はもう萌えません」の3つだった。
先生のコメントの「先生はミルキーちゃん(12歳)に萌えました」のコメントは嬉しかったけど、小学校の先生の発言としてはギリギリだった。
いわれの無い中傷、周りからの「マニアック」発言に傷ついた俺は、普通に生きていこうと決める。
そして、俺はスタープラチナ・ザワールド(オラオラ)が出ない日記を書くため、この町に日記の宿題を持ってきたというわけだった・・・。
「くー」
「寝るな!」
名雪が物体Xに変異しかけている。
7年前なのになんかおかしなネタもあったが、記憶のちょっとした混乱だ。
「うぐぅ、何の話?」
「要するに、祐一が馬鹿だったって話でしょ?」
かってなことを言う真琴。 マコピーの発言のくせに、今のはぐさっと来た。
「つーか、心を読むな」
「今、祐一くんBGMつきで語ってたよ」
「小さい女の子が、らんらららんらんらんって言ってたお」
ナウシカか。 さすが俺。 ナイスチョイスだ。
海老縛りのまま、少女の瞳で語った俺は、かなりイケてる男だっただろう。
「でも確か、あれは学校に提出したはず・・・」
しかも、こんな背表紙がつき、紐のしおりがついた立派な本なわけは無い。
ジャポニカ学習帖を、適当に流用しただけの粗末な品だったはずだ。
「とても個性的だったので、学校の校長に掛け合って、頂いてきました。
心添えに、再編集までしていただいて・・・」
俺の小学校の校長とどんなネットワークが・・・。
しかも、編集まで。
「さて、謎も解けたことですし、読みましょうか」
新しい謎が増えてしまった。 でも、やっぱり読むことに変わりは無いんですね。
「俺日記R」
「・・・タイトルまで」
この頃、俺の周りではRとかSとかつけるのが大流行していたのだ。 意味は誰も知らない。
○月○日(月曜日)
秋子さんのいえにあそびに来た。 秋子さんはかわいい。
今のところおよめにしたい人1ばんだけど、お母さんが言うには、さんしんとうだからむりだそうだ。
さんしんとうってなんだろう?
名雪はよんしんとうだから、「ほうりつてきにもお母さんてきにもOK」とお母さんは言っていた。
ぼくは名雪はいらないので、秋子さんがよんしんとうにしんかしてほしいと思った。
「祐一さんたら(ぽっ)」
「俺って、グレイト・・・」
この頃の自分を垣間見て、恥ずかしいというより呆れた。 まぁ、子供心ながら共感できる部分はある。
文章だと、一人称も僕だし。
ひらがなが多いな。 ここで言っているのは、つまり3親等のことだろう。
「祐一くんって、秋子さんのことが好きだったんだ」
「昔の話だお。 祐一は若かったお母さんに騙されてただけで・・・」
「しっかり、いらないと言われてるからな。 この頃のお前」
「だお」
使い方を間違ってるぞ、その言葉。
俺の言葉を受けて、名雪が凹む。 しかしお前はそのおかげで助かったんだぞ。
後ろで秋子さんが、下、右下、右、右下、下、左下のコマンドまで入れ終えてたぞ。
後は左と□ボタンで大蛇薙がでるところだった。
さすがに従妹が草薙の炎で燃えるのは忍びないなからな。
「さんしんとうって何よぅ」
狐が内容を理解できずに苦しんでいる。 めんどくさいので放置。
「秋子さん、次のページ行こう」
「・・・そうね、では」
名残惜しそうに、秋子さんがページをめくる。 このページだけ妙にしわが寄っているのは、俺の気のせいだろうか。
○月☆日(火曜日)
秋子さんとお母さんはかいもの。 名雪は牛のようにねてるので、たいくつだ。
ひまつぶしに名雪のだいじにしているぬいぐるみに、ぷりてぃーなぶしょうひげを書く。 名雪はねたままだ。
おさげをハナに入れ、せんのような目の上にマジックで目を書く。 ひたいに肉も書く。 しまった、前のままのほうがおもしろいかおをしてた。
名雪のみみのそばで、こいつの好きなねこのマネをする。ねているはずなのに、思いっきりだきつかれて、ほっぺたすりすりされる。
ぼくのかおは、マジックでまっくろになり、その上お母さんと秋子さんはぼくを見て、「なかよしなのね」といってわらっていた。
秋子さんポイントが、だうんだ。
いつか、こいつの好きないちごを全部すりつぶしてやろうと思う。
「祐一、ひどいよ」
「俺が悪いのか!?」
「本当にイチゴを潰すんだもん」
「お前は牛乳かけて、おいしそうに食べてたじゃないか」
イチゴに牛乳をかけてつぶして食べるのは、うちの家だけなのだろうか?
友達に聞いたらおかしいと言われたのだが。
「おまけに私のピカチュー・・・・」
「いや、それ以上言うな」
電気ねずみの話題は、色々危ないならな。
うっかり触れられない。
「うぐぅ、ほっぺたすりすり・・・」
なぜかあゆが、泣きそうな顔をしている。
ほっぺたすりすりに嫉妬を感じたのか?
いや、マジックまみれだぞ、インキ臭いんだぞ。
「真琴だってほっぺたぐらい・・・」
「狐時の話をするな!」
あぶない、拘束されたわが身では、不用意な発言を止めるのも一苦労だ。
「狐って何?」
げ、不用意な発言は俺のほうだ。
「ユウイチ語だから気にしないでいいのよ」
してやったりという表情の真琴。
くそ、動ければ今すぐ日輪の力を借りてどてっぱらを貫いてやるのに。
「では、次に行きますか」
秋子さんがページをめくる。
○月◎日(決戦は金曜日)
今日はきつね・・・む、ここではタブチサンとしておこう。
タブチサンをものみのおかにつれていった。
おいかけっこをしてあそぶ。
だけど、途中でタブチサンは自分のしっぽをおいかけ始めて、ぼくはむしされた。
くるくる回るタブチサン。 しょせんちくしょうだ。
じつりょくこうしで止めたけど、あとにはみすてりーさーくるができていた。
最初のネタ、時代を感じるな。
まぁ、タブチサンが誰かは、語るまでもないだろう。
「あははー、バカねぇ、こいつ」
マコピーが笑う。
本当に分かっていないとしたら、お前の評価はとても正しい。
「祐一さん、あの頃はよくタブチサンと遊んでいましたからね」
「秋子さんはタブチサンて知ってるの?」
あの頃、真琴の存在は秋子さんにはばれていた。
黙認されてたけどな。
正直に言っても、一秒で了承されたかもしれない。
「・・・尻尾があるから、動物だお」
「まぁ、そうだ」
ここで隠してもしょうがあるまい。
今は人間だし。
「尻尾のある動物・・・、ずばりねこさんだお!」
名雪が名探偵ばりに俺を指差す。
残念、キツネさんだ。
「祐一! ねこさんをどこに隠したの!? 正直に答えないと、大変なことになるお!!」
縄の絡まった俺の首を、ゆさゆさ揺らす名雪。
やべぇ、スイッチ入ってる。
ちなみに、やけに静かだと思ったピロは、いつの間にか逃げていた。
「ぐ、あれは猫じゃなくて狐だ・・・」
「そうなの?」
名雪の手が止まる。
同時に背後からこぶしが飛んできた。
ぽすっと、俺の背中に当たる。
「何よぅ、真琴がいない間にどんな女狐と浮気してたのよぅ!」
なんか、勘違いをしているようだ。
だから、タブチサンはお前だっつーの。
が、痛くないのでまた放置しておく。
なんか、肩叩きでもされてる気分で、俺は次のページをめくる秋子さんを見た。
○月□日(ほりでい)
あゆはうぐぅだ。 あほらしくて、書く気もおきない。 まったく、あいつは何であんなにうぐぅなんだろう?
うぐぅすぎて、うぐぅうぐぅだ。
きっとあいつの頭は、うぐぅでうぐぅなモノしかつまっていないのだろう。
ぱ〜ぷ〜でうぐぅだ。
多分これからもうぐぅでありつづけるのだろう。
今日もこぶしがいたい。
「うぐぅ」
「やっぱりうぐぅであり続けたな」
まぁ、俺とこいつの関係も7年前から変わり無しってことだ。
「あはは〜、うぐぅうぐぅだって」
多分、お前が7年前から喋れたら、「真琴はあう〜あう〜だ」と、俺は書いてたぞ。
「あんまりあゆちゃんをいじめてはダメですよ。
次に行きましょうか?」
あゆが凹んでいるのを見て、秋子さんは軽く俺たちをたしなめた後、ページをめくった。
なんか、日記帳を読んでる秋子さんと俺達って、保母さんと園児って感じだな。
いや、俺はうぐぅやだお〜やあう〜とは違うと思いたいが。
○月▽日(えっくすでー)
まちでへんなやつとけんかした。
たおしてもたおしてもすぐふっかつしてくる。
ぞんびみたいだ。
縮退砲で時空のかなたにほうむったが、口の中がきれた。
あの触覚、一生わすれん。
「なんか、この人あったことがある気がする」
「気のせいじゃないのか?」
俺は生命力がゴキブリの3000倍以上あり、アンテナがつき、声が関智一の男なんて、知り合いにいない。
「では、次に行きましょうか」
それ以上のコメントも無く、秋子さんもページをめくった。
○月π日(あるまげどん)
今日、とてもかわいい女の子とあそんだ。
うぐぅやだおーとはえらいちがいだ。
とってもかわいくてやさしい子で、むぎばたけでおいかけっこをした。
ちゃんと、ぼくのあいてをしてくれる。
どこぞのタブチサンともうんでいの差だ。
なんか、心のおあしすってかんじがする。
やすらぎちゃんだ。
けっこんしたいらんきんぐも、かなりゆらいでる。
今度、すなばであそぶやくそくをした。
とても楽しみだ。
「これは・・・」
「・・・」
「祐一、コノ子、誰?」
名雪が、ぎこちない調子で聞く。
「舞だ」
そう、これは間違いなく舞。
この頃は普通の女の子だったんだなぁ。 麦畑で追いかけっこなんて、今やったら討たれそうな勢いだ。
「そんなわけないでしょ!
あいつは剣でばしばし人を切っちゃうような危険人物なんだから!」
真琴が声を荒げて、無防備な俺を蹴る。
あ、これは結構痛い。
どうやら、夜の学校で魔物と間違えて切られかけた事を、未だに根に持っているようだ。
まぁ、今の舞からあの形容詞はでてこないな。
俺のせいだけど。
「うぐぅ、祐一くんの浮気者!」
あゆも参加。
食い逃げフットで蹴る蹴る蹴る。
お前ら、下着見えるぞ。
「祐一・・・」
名雪の体が震えている。 寒いのか、そうだよな。
そうに決まってるよな。
「名雪、落ち着け!
たかが小学生の日記じゃないか!」
自分を言い聞かすことにも失敗し、俺は叫びながら抗議した。
しかし、そこで名雪は爆発した。
「そうだお、どうせその内ひょっこりこの子が出てきて、またお邪魔虫が増えるんだお〜」
手に持ったケロピーで叩く叩く。
おまえ、あゆ達をそんな風に思ってたのか。
が、怒り狂っている二人に名雪の爆弾発言は聞こえない。
「秋子さん、助けて・・・」
最後の望みに、俺は秋子さんに手を伸ばしたが、秋子さんはいつもの笑顔で頬に手をあてているだけだ。
もしかして、秋子さんも結婚したいランキングについて怒ってます?
伸ばした俺の手は、やがて力尽き、地に落ちた・・・。
そう言えば、今まで提出した日記の中で、これが一番好評だった。
終ぃ