魔王の家の村娘A

8話 VS下着アーマー


「こういうのとかどうかなぁ」
「え、でもそれだと露出が多過ぎませんか?」
「うん、だからこういうのを併せて普段は清純、いざとなったら装甲パージしてがばーって寸法な訳」
「な、なるほど、色々考えられてるんですね」
 飾ってある衣服を一つ一つ眺めながら、舞がそれぞれに対して説明をしていく。
 そのファッション講座を、アンは熱心に聞いていた。
「お兄ちゃんはどれがいいと思うー?」
 と、後ろで暇そうにしている良に、舞が問いかける。
「そこの安い奴」
「んもーお兄ちゃんは。安いって言ってもそれじゃ着まわしし難いでしょ。それならこっちの……」
「はいはい。お前もこんなのに付き合わされて大変だな」
 舞を適当にあしらいながら、良はアンに視線を投げた。
「いえ、色んな服に色んな気持ちが篭ってるんだなって思うと楽しいです!」
「お前は良い事探しの達人か……」
 アンが答えると、呆れた顔をした良は付き合っていられないとばかりに首を振った。
「そういえば、異世界の服はどういった感じなのだ? 言っておくが、お前のようなファンピーの話はいらんぞ」
「私の場合……え? あ、じゃぁええと私のお姉ちゃんの話をしましょうか」
 自分の普段着ている服について話そうとした所で釘を刺され、アンは仕方なく別の人間について話すことにした。
「へー。アンお姉ちゃんって妹なんだ」
「と言うか、お前の姉は一般人ではないのか。どうせファンピー一家だろうと思っていたのだが」
「違いますよ。うちのお姉ちゃんは街と街の間の護衛をしたり、遺跡を探索したりする仕事の人です」
「冒険者か!」
「えーと、そう呼ぶのが良い方の言い方ですね。悪い方だと遺跡荒らしなんて言われますけど」
 そんな風に解説しながら、アンはそういえば姉と最後に会ってからもう一年は経つなと思い返していた。
 元気だろうか。あんな職業なので何があってもおかしくないが。
「それで、お前の姉はどんな格好なのだ。金属の全身鎧か? いや、遺跡などに行くならば動きやすい皮製のものか? それとも部分鎧的な……」
 先程までは目だけをこちらに向けていたくせに、急に体をこちらに向け、詰め寄ってくる良。
 その変貌に困惑しながら、アンは左右を見回した。
 そもそも中々会う事のない姉を思い出したのは、この売り場にあったそれを見た所為であった。
 見つけたそれを指差し、良達に告げる。
「こんな感じです」
「こんな感じって……それビキニじゃん」
「ビキニアーマーだと!?」
 アンが指差したのは、カラフルな、今アンがつけている下着のような形状の、舞曰く水着と言うものだった。
 これを見た時、アンはこちらにもこういう服があるのだなと感心したものだ。
「ふざけるな! こんなものが現実……えーと、現実で良いんだよな……現実に存在するというのか!? 何故だ!? お前の姉が痴女だという以外に理由があるのか!?」
「お、お兄ちゃん、どうどう」
 アンに対し、先程よりも激しく詰問する良。
 効率も何も、そんなの当たり前ではないか。半ば憮然としながらアンは答えた。
「えーと、だって冒険者さんの体って、鉄なんかより硬いじゃないですか」
「はっ!?」
「ほら、駆け出しでは無理ですけど、少し鍛えればここの屋上から飛び降りるぐらいは平気になるじゃないですか」
「ならねーよ! ここ五階建てだぞ!? え、なら、ないよな?」
 アンがきっぱり断言するので不安になったのか。良が隣の舞に問いかける。
「こっちの世界ではね」
 すると今度は彼女がきっぱりと首を横に振り、アンが驚愕する番となった。
「ならないんですか!?」
「ならねーよ!」
 舞に自信をもらった形で、今度は力強く断言する良。
 そうか、ここはやはり異世界なのだ。そういえば先程の動く階段と言い、この世界の人々はやたらと楽をできる発明を生み出しているようだった。
 あれは怠惰なのではなく彼らがひ弱だからだったのだ。
 その土地の服飾、風俗には何かしらの理由がある。改めて納得しながら、アンはこの世界の人間にシンパシーを感じた。何故なら……。
「それで、お前の姉ちゃんは何故ビキニ鎧なのだ」
 故郷での事を思い出していたアンを、良の声が引き戻す。
 それで立ち返ったアンは、急いで考えをまとめ説明をしだした。
「え、あ、はい。だから、半端な防具をつけるよりは体の動きを邪魔しない格好をしたほうが、結果的に怪我が少なくなるんです。後は、依頼人に自分は強い冒険者ですよってアピールできるってお姉ちゃんは言ってました」
 姉に聞いたままの知識だが、アンはなるべく良に分かりやすいように説明した。
「へー……あぁいうのってお色気以外にも、ちゃんと理由があるんだね」
「ほ、本当に、物理的に硬いとは。RPGでレベルの上がったキャラが裸でゴーレムに殴られても一ダメージなのが科学的に正しいとは……いや、科学だよなこれ。物理学か?」
 納得の声を上げる舞。対して良はといえば、頭を抱え口調が変わり混乱しきっている。
 他世界の常識とは、それが相手にとって当たり前であればあるほどこちらにとってはショックが大きいものだ。
 アンには昨日今日でそれがよく分かっていた。
「……つうかこんな格好が主流なら、お前もケツ出しやら透けやらで騒ぐ必要はなかったではないか」
 頭を抱えたポーズのまま、はっと気づいた様子の良がアンを見る。
「あ、あくまで冒険者さんの話です! 私はいくら丈夫になってもああいう格好は流石に……」
 彼の言葉に自らの痴態を思い出し、アンは赤面した。例え自分に能力があったとしても、あんな格好で往来を歩くのはごめんだ。
「ていうか、本当にそのお姉ちゃん以外もそんな格好してるの?」
「え? えーと……」
 そういえばと、アンは考えた。幾人か冒険者は見たことがあるが、確かに姉ほど薄着の人間とは会った事がない。
「お前の姉が露出狂だっただけなのではないか」
 沈黙したアンに、にやりと笑って良が言う。
「人の姉を痴女呼ばわりしないでください!」
「わっはっは、良いではないか、お前にもその痴女の血が流れているのだ!」
「やめてくださいよー!」
「わっはっは!」
「二人とも、公共の場でそういう単語を叫びながらはしゃぐのやめて」
 アンを大声で笑いながら胸をそらす良と、その胸をぽかぽかと殴るアン。
 舞がそれを恥ずかしそうに止めると、慌てて周囲を見回してからアンと良はお互いに背を向けた。
「お、おう」
「ごめんなさい」
「んもう、二人とも羞恥心は大切にしようね」
 むしろ自分はここに来てから恥ずかしがってばかりなのだが。
 思いながら、アンはまた顔を赤面させた。

次へ    戻る   村娘TOP    TOPへ