魔王の家の村娘A

11話 VS真夏


「良さーん! 舞さーん!」
 焼け付くような日差しの中。アンは手を振って二人を呼んだ。
「はしゃぐな。余計暑くなる……」
「まぁ、初プールなら、仕方がないよ」
 遅れて良と舞が付いてくる。冷房に慣れきった二人の体では、この暑さは辛いようだ。
 二人は同じようにぐったりとした様子である。
 プールという場所に行こう、と言い出したのは舞だった。
 アンはその場所の事をよく知らなかったが、聞けば暑さも吹き飛ぶ場所らしい。
 二週間ぶりの遠出という事もあって、ワンピースに麦藁帽子という格好のアンの気持ちは弾んでいた。
「で、どっちに行けばいいんでしょう!?」
「そこだそこ! そこで止まれ! 何で目的地も知らんくせに先導しようとする!?」
 目的地を通り過ぎそうになったアンを、良が止めた。
 何故と聞かれても、夏の陽気のせいとしかアンには答えられない。
 言われた通り足を止めると、そこは周囲を壁で囲まれた大きな建物であり、中からは楽しそうな遊び声が聞こえる。
「ほれ、とりあえず券売機で入場券を買うぞ」
 言いながら、良が建物の入り口の脇にある機械に硬貨を入れる。
「あ、それ私やりたいです!」
「ほんっとうに子供だなお前は」
 アンがハイハイと手を上げると、良が呆れた顔をしながら脇に退く。
 アンがやって良いらしい。
 意気揚々と機械の前に行くと、良が横から指示を出す。
「まずそこの女二人男一人ボタンを押せ。それから高校生二枚と小学生一枚だ。……いや、お前は中学生で良いか」
 良が自分の体を下から上まで眺めてからそんな事を言うので、意味はよく分からないが高校生を二枚買う。
「あ、コラ中学生ボディ!」
 出てきた券に、良が悲鳴のような声を上げる。やはり意味は分からないが不名誉な事を言われている気がする。
「良いじゃない。五十円しか違わないんだし」
 後ろから舞の手が伸びて来、出てきたチケットを分けた。
 受け取ったアンの手を取ると、彼女は入り口へと引っ張っていく。
「やれやれ」
 振り返るアンを、良はため息をつきながら見送っていた。
 
入り口で券を渡すと、そのまま奥の更衣室と書かれた部屋へ。
 中へ入ると、沢山の女性が服を脱いでいる最中だった。
 公衆浴場で見慣れた風景ではあるが、いきなり出会うとぎょっとする。
「あれ、これから行くのってお風呂なんですか?」
「んー、水風呂?」
 言いながら、舞は奥へと進んでいく。
 そして途中で曲がると、彼女は正方形の箱が集まった鉄製の棚の前に止まった。
 舞はそこで鞄を開けると、ついてきたアンに何かを手渡す。
「はい。アンお姉ちゃんの水着。えへへ、私のお小遣いで買っちゃった」
 言いながら、舞は照れ笑いを浮かべた。
「えぇ、わざわざ買ってくれたんですか!?」
「うん! お小遣い残ってなかったからあんまり高いのは買えなかったけど」
 広げてみると、まるで姉の服のような胸当てと下着の組み合わせである。
 周りを見ると、幾人か同じような格好をしている女性がいた。
「こ、これを着て良さんと合流するんでしょうか?」
「うん、そうだけど?」
 恐る恐る尋ねると、舞はあっさりと頷く。アンは姉と違い、そういった格好にはある程度抵抗を持つ方である。
 もっと正直に言ってしまえば、恥ずかしい。
「あの、やっぱり嫌、かな?」
 躊躇っていると、舞が上目遣いでアンを不安そうに見上げていた。
「い、いえ、この世界ではこれが普通なんですよね! だったら大丈夫です!」
 彼女が少ないお小遣いで自分にプレゼントをしてくれたのだ。嫌なはずがない。
 そうだ、ここではこれが普通なのだ。
 アンが自分に言い聞かせて握り拳を作ると、舞は笑顔で頷いた。
「じゃ、着替えよ」
 そう言って、服を脱いでいく。
 決意を固めたアンも、それでも少し恥らいながら同じように服を脱いでいった。
「さー、今日は泳ぐぞー」
 早くも全裸になった舞が、伸びをしながら宣言する。
「え、泳ぐ?」
 彼女の言葉を聞き、こちらはまだ下着姿のアンは硬直した。
「プールって場所はもしかして、泳ぐ所なんですか?」
「え、言わなかったっけ? そうだけど、何か問題ある?」
 大問題だった。

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