♪哀愁カラオケ 〜真昼のメリケン〜
「だから、俺はセガカラがいいというんだ!」
俺は猛烈に主張した。
「何故だ、相沢。 ジョイサウンドは今Leaf特集を組んでいるんだぞ! 他にもアニソンの充実度ではあそこが一番だ!」
甘い、甘いぞ北川。
お前はカレーより甘い。
「カレーは甘口より辛口のほうが好きだ!」
「・・・どっち道、カレーは甘くないわよ」
小さく香里がつっこむ。考えを読まれた気もするが、ここは無視だ。
「お前はKeyの人間として、それで良いのか!?」
「・・・なんか、俺がKeyに勤めてるみたいだな」
俺の勢いに、北川が一瞬怯む。
今がチャンスだ。
「Last regretsを歌えるのはあそこだけだぞ!(2001年10月現在) しかも鳥の詩も歌えたりする。 ビバセガ!」
分かっていない、風の辿り着く場所まで歌えるというのに。
他にもアニソンは結構あるぞ。
「・・・そうか、それはそうだな」
北川が真剣な顔で考え込む。
勝った、俺の勝ちだ。 あいむあチャンプ。
「・・・両方却下よ」
感動に浸っている俺に、香里が水を差す。
放課後、俺達は週末に遊ぶ計画を立てていた。 メンバーは俺、北川、名雪、香里。
名雪は目を線にしている。 つまり寝ている。 俺たちの激論に耐えられなかったようだ。
俺と北川の猛烈な主張により、カラオケに行くことになったが、機種のことで揉めているのだ。
「なぜだ、かおりん!」
「な、かおりんって・・・相沢くん」
なんか、俺の思わぬ攻撃に香里が赤くなる。
む、かわいいぞ、かおりん。
「祐一と香里がなんか仲良しだよ」
今まで半分寝ていた名雪が、恨めしげな声を出す。
目が線になってたのに、何故こういうところで反応するんだ?
「よし、俺も呼ぶぞ!
かおり〜ん!」
・・・あ、香里の右フックが北川のテンプルに・・・。
すごいすごい、ジャブの連続。 オラオラみたいだ。
最後は人中を狙った黄金の右ストレート。
ああ、北川が大量の気を浴びたように吹っ飛んでいく。 お、斎藤が巻き込まれた。
「・・・すごいな」
「香里、斎藤君がかわいそうだよ」
「斎藤君、ごめんなさい、大丈夫?」
「俺の心配は無しかい!」
顔面ボコボコの北川が抗議するが、どうせすぐ再生するので気にしない。
「で、何でダメなんだ?」
「無視するな〜!!」
「そんなところに行ったら、相沢君達そういう歌しか歌わないでしょ」
「そういう歌とは?」
「そういう歌」
「ふ、はっきり言わないとご褒美あげないぞ」
「殴るわよ」
俺のちょっとしたジョークに、香里が反応した。
うむ、意味も分かっているようだ。 名雪なんて、俺が何を言ってるのか分からない顔をしてるのに。
「・・・相沢にはちゃんと警告するのか」
北川の恨めしそうな顔。 こいつ、もう復活してやがる。
斎藤なんて、未だに気絶してるのに。 実は魔物? 今度舞に狩ってもらおう。
「要するに、私達の知らない歌ばっかり歌うのはやだって香里は言いたいんだお」
「・・・まぁ、そんな所ね」
まぁ、カラオケに行ってアニソンしか歌わなかったらやっぱり普通の女の子にはつらいだろう。
名雪は平気な気がするが。
「学年トップが、名雪に説明されてる」
「本当に殴るわよ」
「ああ、水瀬に説明されるとは・・・」
言いかけた北川が、香里の裏拳一発でもう一度壁まで吹っ飛ぶ。
斎藤と一緒に壁を割って隣りのクラスへ。
「祐一も香里もひどいこと言ってるよ」
「そんなこと・・・」
「祐一、なんか歯切れが悪いよ」
「「そんなことないぞ(わよ)」」
「わ、今度は一緒」
シンクロ率100%の俺たちに、名雪が驚く。
なんか今日は息があうな。 その内400%突破して、液体になってしまいそうだ。
「やっぱり警告がない〜!」
隣りのクラスで北川が叫ぶが無視。
「大体俺は、何でも歌えるぞ」
「例えば?」
「山口百恵からフランク永井まで」
「低音の響きだお」
「例えが古いわ」
「スーパーベルズから、B’zまで」
「祐一、すごいよ」
「間に誰がいるのよ」
「浜崎あゆみ」
「・・・どの辺がB’zとベルズの間なの?」
「胸筋」
「歌関係ないじゃない」
「むしろ、胸筋が勝っているか、俺は追及したいんだが」
もう復活してやがるジューン北川。
「北川君は早く壁直してきなさい」
「俺のせい!?」
ちゃき。
香里が静かにメリケンサックを構える。
「うぅ、行ってきます」
良かったな、北川。 警告があったぞ。
無言だったけど。
とぼとぼとやつは、人型に空いた壁を掃除用具入れの中にあるコンクリートで固め始めた。
最近は壁が崩壊する出来事(香里、時々舞)が多いため、クラスに常設されたのだ。
「ともかく、何でも歌えるぞ」
「祐一は昔からモノマネがうまいんだお」
「そうだお」
「祐一、やっぱり似てない」
「うぐぅ」
「あゆちゃん?」
「はちみつくまさん」
ふ、今の俺にかなう奴はいまい。
身内ネタの王者と呼んでくれ。
「さすがカオナシね」
生きていく〜ふ〜し〜ぎ、死んでいく〜ふしぎ〜♪
「って、誰が宮崎駿キャラだ!」
「・・・立ち絵も声もないじゃん」
速乾性コンクリートで壁を埋める北川が後ろを向いたままボソッという。
哀愁が漂っているが、それだけに心にズンと来る。
「ちきしょー!
カオナシはみんなの中にいるんだ〜!!(宮崎駿曰く)」
俺は涙を流し、教室を去っていった。
「わ、斎藤君を塗りこめちゃダメだお」
名雪が俺を涙ながらに引き止める声が聞こえたが、俺は家までダッシュした。
・・・結局、その後行ったカラオケでは香里が日頃の鬱憤を晴らすかのごとく、一緒に死んでください系の演歌を永遠と歌った。
学年トップにもなると、色々あるんだろう。
冗談で酒なんか注文するんじゃなかった。
俺たちが歌えたのは最初の一巡だけだった。
名雪の最初で最後の曲のチョイスが、森のくまさんであったことを考えると、これで良かったのかもしれない。
北川は最初の10秒で強制終了させられた。 ・・・「残」なんか本気で歌うからだ。
俺が何を歌ったかは秘密だ。 5秒で止められた。 あ〜なたと会った〜あの〜日〜から〜・・・。
だめか?